「さっさと飲みやがれ」
「なんでですか」
「名前の言う通りだ、うん」
「あ?テメェら、俺の言うことが聞けねぇと?」
「いや、そういう訳じゃ、ないん、ですけど、ね」

ぎろりと睨みつけられれば抗議の言葉も語尾がひょろりとなってごにょごにょと口ごもる。サソリさんのこと、初対面ではフィーリング的に好きだと感じたけど、やっぱ苦手かも。とか思ったりする。
一体私は何について抗議しているかと言うと遡ること約10分前。

「ほら、デイダラと名前でコイツを同時に飲みやがれ」

お馴染みの命令口調とともにずいっと差し出された白い手の平の上には怪しいうにゃうにゃを纏う紫色の薬。

「…麻薬?」
「ふざけてんのか」
「じゃあドラッグ?」
「死ね」
「えぇぇぇぇ」

だってこれどうみても怪しいじゃないですか。なんだか身の危険を感じる。それはどうやらデイダラも同じみたいで顔を真っ青にしている。…ますます身の危険を感じるぞこれ。

「とにかく飲め」
「嫌です」
「なら死ね」
「はぁぁ?!」
「デイダラ、お前は飲むよな」
「オ、オイラか?!」
「たりめぇだろ」
「い、嫌だ!いくら旦那でもこれだけは嫌だ!」
「あ?」
「だって旦那、前もそうやってオイラのことを…!」

な、何をやったんだサソリさん。怖い。恐すぎる…!

「いいから飲め」
「ちょ、や、やめて下さいよ」
「やめろ旦那ァ!早まるんじゃねぇぞうん!」
「別に早まっちゃいねぇよ」

ぐいぐいと無理矢理口に突っ込んで来るのを私とデイダラは必死にカバー。そして今に至る。

「も、やめろってば!」

どん

「あ」
「え、あっ」

思いっ切りサソリさんを突き飛ばした反動で、サソリさんの手にあった怪しげな薬は宙を舞い、

ごくん

え、ごくん?え、え。もしかして私、飲んじゃったの?!あ、なんか頭クラクラしてきた。ああ私、死ぬのか。さようなら。

「チッ、くそ。デイダラめ。てめぇ後でぶっ殺、す」


「おい、名前、大丈夫か?うん」
「…」
「おい名前ってば!」
「…ッチ、んだよ」

え。
ま、まさかあの名前の口から乱暴な言葉が…?!いやいやいやいくらなんでもそれは。

「名前?おい!名前!起きろ!うん」
「るせーんだよガキ」

が、ガキ?!
なんだこの喋り方は。まるで旦、はっ!まさか!

「おい、おい旦那!起きろって。いつまで寝てんだよ、うん」

乱暴な態度の名前の隣に倒れている旦那を揺り起こす。ゆさゆさと揺すり、少しの沈黙の後、ん、と声を発した旦那。なんか、きめぇぞ、うん。

「旦那?」
「あれ、デイダラ…?」
「大丈夫か?うん」
「あれ、私生きてる?」

私、だと。まさか、まさかのまさかでやっぱり名前と旦那は

「入れ代わってる」

がくりとうなだれるオイラに旦那もとい名前?いや名前もとい旦那?(ああもう分かんねぇぞうん?!)が心配そうに問い掛けて来る。

「お前、本当に名前か?うん」
「な、何を言ってんの。まさか何、私死んでんの?!いやあああ」

やっぱり名前だ。てかきもい。もしこれを名前が本来あるべき姿でやっていれば可愛いのに旦那だとなんか、こう、吐き気を覚える。

「名前、落ち着いてよく聞け。名前は死んでないが厄介なことになってるんだ。うん」
「ややや厄介なこと?!」
「落ち着け。とりあえず、鏡を、見てみろ」

鏡を指差す腕が自然と震える。まさかこのオイラがどどど動揺するだなんて!

「鏡…?」

ぽけっとした表情をしてから鏡を覗き込む。あ、とまった。今完璧ピシッて音聞こえた。

「ナニコレェェェェ?!は?!サソリさん?!あれ、私だよね?!私は?!私はどこ?!」

数秒の後、想像通りパニック状態に陥った名前を落ち着けようと制止の言葉をかけるがパニック状態の名前には何も通じない。

そこへむくりと起き上がりけだるそうな目をした名前の姿をした旦那が登場。

「うるせーんだよガキが。」
「だ、旦那!」
「私ぃぃ?!あ、もうだめ…」

ふらりと倒れかける旦那の姿をした名前を受け止めれば旦那から一言。きめぇ。

「女々しい俺なんざ俺の美意識に反する。ざけんな」

ぶん、回し蹴りをする旦那。
咄嗟に避けるが、あれ、なんだろうか。怖くない。
一方で名前は旦那の姿なのにも関わらずビビってる。なんだこの異様な光景は。

「名前、てめぇ俺の格好してんな態度とんな。殺すぞ」
「サソリさんますます怖い!」
「あ?どの口がんなこと言ってんだ」

げし、げし。
なにが起きたか一部始終を知っているヤツ以外から見たら今の状況は名前が旦那を蹴っていて、旦那がびくびくしているというなんとも異様な光景なのだ。いや、一部始終を知っているオイラでも違和感をもの凄く感じるぞ。うん。

「サソっ、サソリさん!もうやめてくださいってば!」
「あ?だったらさっさとそのうじむしから卒業するこった」
「サソリさん!」
「!」
「お?」

咄嗟に出た名前の足は無意識のうちに回し蹴りになり旦那を吹き飛ばした。だんっと豪快な音をたてて壁に打ち付けられた旦那は痛かったのか眉間に皺をよせた。
普段の旦那ならこれくらいなんともないだろうから、中身は入れ代わっても身体の能力自体は姿のままらしい。入れ代わったのは名前と旦那の魂だけってことか。

「…名前てめぇ」
「あれ、サソリさんなんか弱…?」
「…俺が弱いんじゃねぇ。てめぇの体が弱すぎんのと、俺の体が強すぎるだけだ」
「でも今は私の方が強いんですよね。えへ、えへへ」
「ちっ、なんで俺がこんな体に」
「なんかすっごく身軽です。ほら!ほらほら!見て!私こんな動きもできる」

ひらりとマントを翻して宙返りして興奮する姿はなんとも新鮮だ。こんな動きは忍としては基礎中の基礎。でも忍でもなんでもない名前からしたら時限が違うんだろうな。うん。
そんな横で旦那は気に食わないのか眉間に小の字を刻んでいる。おいおい、それ名前の体だからな。うん。

「…ところでさ、旦那」
「…(ぎろり)」
「(怖くねぇ)この薬の効果はいつ切れるんだ?」
「…ざっと30分くらいだな」

そう言った瞬間、再びなにかがぷつりと切れたように同時に二人が白目をむいた。これはある意味怖ぇぞ、うん。

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