※短編「ひだんのいちにち」の直後


あれから毎日飛段さんはジャシン教だの自尊教だのなんだの言ってくる。私、断ってるんだけど。

「なあ名前!ジャシンに興味ねえ?」
「だからないですって!」
「そんなにかしこまらなくっていいんだぜ!ジャシン様はとても寛大な方だからな!」
「だから入りたくないのにー!!」

朝からばたばた煩いと思い広間へいけばソファやら机やらの周りを走り回る名前の姿。そして仲良く後を追いかける飛段。
いや、名前の顔は青ざめているところから仲がいいというより飛段からの一方的な嫌がらせだろう。飛段からしたらこれは崇拝者を増やすための大切な信者の役目なんだろう。

「も、しつこいですって」

息がすっかりあがってふらふらしながらも逃げる名前が哀れに思えてしょうがない。ここは叔父(?)である俺が救ってやらねば。

「あっ!イタチさん!助けてー」

広間に入ってきた俺に漸く気付いた名前は走り寄ってくる。その刹那、

「あっ…!」

どじな名前はコケた。咄嗟に名前の脇の下辺りに手を滑り込ませ持ち上げる。まるで赤子を抱える感覚だ。あまりにも名前が軽く、しかも細くて驚いた。筋肉のかけらも感じないこの体はこどもそのもの。とりあえず飛段から隠すように背中に名前をやれば、飛段が煩いというよりも騒音をあげた。

「あーっ!!イタチ何名前といちゃいちゃしてんだよ!」
「特にしてないが」
「そんなことよりも何名前隠してんだよ?!」
「飛段止めてやれ。嫌がってるだろう」
「そうだそうだ!」

俺の背後から首を縦にぶんぶん振る名前が虎の威を刈る狐の狐に見えたのは気のせいだろうか。まあきっと気のせいだ。

俺が一人思考を巡らせている間も俺を挟んで飛段と名前がうるさすぎるコミュニケーションを繰り広げる。

「だーかーらー!私はそんな怪しい宗教に入らないってば!」
「オイコライタチィ!さっさと名前を出しやがれ!」

ビシィ!と俺を指差す飛段にやめてやめてと首を横に振る名前。この二人の間にいると疲れるな。いや、名前はそうでもないがもともと飛段が…。なんとかして黙らせたいものだ。
とりあえず今は名前がジャシン教に入れば大人しくなるだろうが、名前があのドMな儀式をやる姿を想像したくない。否出来ない。想像すると目眩が…。これが所謂拒絶反応…!
ん、想像?
そうだ。

「飛段」
「あ?んだよォ。ようやく差し出す気になったか!ゲハハハハ」
「あぁ」
「?!イタチさん?!」


どうなってんのかいまいち理解できない。いや、なんか飛段さん一人勝手に喜んでるというかなんというか。てか飛段さん、私ここですけど。あれ。飛段さんには私たちが見えないのか?
もんもんと疑問を抱えていたらぽん、と肩に手が置かれる。顔をあげればそこにはイタチさん。

「とりあえず今のうちに逃げておけ。」

イタチさんまでよく分からんことを…

「え?でも、」
「飛段なら大丈夫だ」
「いや、どうみても怪しい人になってるんですけど…」

それでもとにかく大丈夫だの一点張り。そんなとき、ふと会話が聞こえた。

「イタチもよく考えたな」
「まぁイタチさんにしか幻術なんてかけられませんからねぇ」

…なるほど。
要するにイタチさんは飛段さんに私がジャシン教に入った幻術を見せていると。
うわ、親切心なのは分かるけど、これから飛段さんがますますめんどくさくなりそう…。


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