「サソリちゃーん!起きて下さ〜い!あーさでーすよ〜ぉ?」

どんどんどん

「サソリちゃーん?」

どんどんどんどんどん

「そうか、サソリちゃんは私に起こして欲しいんだね!もーしょーがないなぁ」

どかっ バキッ

「…名前テメェ…」
「おはようサソリちゃん!爽やかな朝だよ!清楚で清々しい!まるで私の様な朝だね!」
「…あ?」
「さてさてサソリちゃんに問題です!」
「んだよ朝っぱらから」
「今日は何の日?!」
「さぁ」
「とぼけてる?」
「はぁ?一体何の話だかさつぱりわかんねぇな。しかも朝から清楚だの、清々しいだの、まるで自分のようだの…ホラ吹いてんじゃねぇテメェは清楚の裏返しだろうが!」
「その罵倒も愛情の裏返しでしょ?!私、すっごく嬉しいよ!」
「まじなんなんだコイツ。ウゼェ。」
「もーサソリちゃんったらてれちゃってぇ。しょうがないから私が言ってあげるよ。今日が何の日か。今日はね、」
「は?テメェ名に言ってやが、」
「サソリちゃんの、誕生日だよ」

その先は言葉が出なかった。ふと気づいた時には俺よりも小柄な名前に抱きしめられていて、その暖かさや愛おしさに、体がすっかり固まってしまった。クソ、この俺が。そう思いつつも、こんな感情に浸って見るのも悪くないなんて思ってしまう自分は末期なんだろうな、と自嘲した。

「サソリ」
「あぁ」
「生まれてきてくれて、ありがとう」

ふわりと吹いた風と共にいつの間にか先程までうるさかった名前の姿が消えていた。一瞬焦ったもののすぐに冷静を取り戻した。
あぁ、そうだった。
名前はもう、この世界にはいないんだったな。
それでも先刻見たものは紛れもない名前だった。あいつはあいつなりに、俺のことを気にかけてくれていたのだろう。毎年11月8日になると必ず現れる資源体となった名前。一年に一度何故か俺たちは会えるらしい。まるで織り姫とひこ星だななんて会話をかわしたのは去年の話だったか。
傀儡となったために姿が変わらない俺と、名前自身の時が止まってしまったがゆえに姿が変わらない名前。似たもの同士な俺たちが会えるのはまた一年後。

なぁ、お前のおかげでよ、
少なくとも11月8日は
楽しみに思える様になったんだぜ。

目の前で言うのはなんだか嫌だったからよ。
今言わせてもらうが、ありがとな。

お前、死ぬ間際に聞いたよな?この世に生まれてきて、よかったかって。あんときはなんとも言えなかった。悪かったな。
お前の生前最後の質問にこたえてやるよ。
この世に生まれてきて、よかった。
今ではそう思ってる。



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