あれから私は頑張って帰宅。そして機会音痴ながらも、頑張ってあの河川敷の場所も調べた。フリーズさせたりエラー起こしたり、なんかウィルスにやられたっぽかったりしたけど気にしない。全て強制終了させた。
私はまたあの赤髪のお兄さんに会えないかなぁなんて期待を寄せながら毎日通ったけど会えなかった。なんだかもう無駄な気がして、今日会えなかったら、もうあの人のことは忘れて、ここには来ないようにしようと思う。
今日もあの日に座った場所(憶測の位置だけど)に座り込む。特にすることはなく、ただただ時間だけが過ぎていく。途中頭が痒くなってぼりぼり掻いていたら、掻きすぎてフケが沢山落ちてきた。

ここに座って6時間程たった頃、雲行きが怪しくなってきた。そう思ったのもつかの間。ぽつり、ぽつり、と空が泣き出して、仕舞いには号泣。遠くの方で雷がごろごろと鳴り出した。
やべぇ、ヘソ取られる!
とっさにヘソを手で覆うが、やっぱり傘が欲しい。どうしよう、そろそろ帰ろうかなぁ。でもなぁ。今日で最後にするって、自分ルールつけちゃったし。
なんてうだうだ考えているうちにどんどん雨は酷くなる。うわ、なんか寒くなってきた。明日風邪で死んでるかも。

すると突然、雨が止んだ。

「何してんだよばーか」

と思ったらあの赤髪さんが私に傘をさしてくれていた。

「あ、ようやく会えた!」
「…あのさぁ」
「私、名前聞きそびれちゃって、教えていただけます?」
「お前」
「あなたばっかり私の名前知ってるなんて不公平じゃないですか」
「もうここへは来るな」
「…え」

そう言い放つ赤髪さんは、あの日の別れ際のような優しい顔ではなく、見たことのないくらい冷たい表情をしていた。

「今、なんて」
「もうここへは来るな。毎日来たって意味ねぇだろ。ほら、傘やるから帰れ」
「え、あの」
「帰れって言ってるだろクソガキ」
「え、あの、名前、」
「…サソリだ。これで満足か?ほら、とっとと帰れ」

ぐいぐいと強引に渡された赤色の傘。まるでサソリさん?の髪の色。傘の後ろからちらりと見えたサソリさんは、前に見てから頭から離れなかった、あの悲しげな表情だった。そんな顔を見てしまったら私の動きも止まってしまう。その隙に傘を押し付け、素晴らしい程の速さで走り去るサソリさん。慌てて私も追い掛けようと走ったが追いつけず、どんどん距離は広がるばかり。とうとう私はサソリさんを見失ってしまった。
ん、待てよ。なんでサソリさん、私が毎日来てたの知ってんの?え、なに。知ってたけど無視してました。みたいな?うわ、なにそれ地味に傷付いた。

「サソリさん!傘、明日返しに来ますから!ちゃんと受け取りにきて下さいね!」

サソリさんの姿は見えなかったけど、とりあえず叫んでみる。
ぎゅっと握りしめた傘の柄には、サソリさんの優しさがまだ残っていた。

「サソリちゃん、傘、明日返すね」
「うん」


どくん。
叫んで一息ついた瞬間、この場所と何かの影が重なった。はっとして周りを見ても、さっきのように雨が地面を叩いているだけ。
見たことのないような、あるような、そんな映像が頭の中に流れ込んできた不思議な感覚。そんなことよりも、映像の中の女の子は、私?だとしたらあの私は何て言った?サソリちゃん?
私は、サソリさんのことを、知っているの?
私の知らない過去に、サソリさんは存在しているの?
急に激しくなる動悸。カタカタと奥歯が鳴る。ぞわりと立つ鳥肌。全てが怖くなった。私は一体、何者なの。

とん、
指先から力が抜けていき、サソリさんの傘が地面へ落ちる。私の視界もぐらりと歪み、フェードアウトしていく。最後に見えたのは、サソリさんの赤い傘と、さっき見た、いつの日かの自分の影。



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