長年付き合ってきた恋人に、突然なんの前触れもなく別れを告げられたらどうなるかなんて、一度も考えたことなかった。そんなことありえないって思ってたから。まさか自分がって。
例えばだけど、もし明日世界の80%の人間が滅亡すると言われても、みんな「へー」とか「大変だねぇ」とか、まるで人事のような反応をする。なぜならみんな、まさか自分がその滅亡する人間の中に含まれてるなんて考えもしないからだ。なんて都合のいい考えの持ち主達であろうか。
だけど私もついさっきまではその考えの持ち主だったわけで、今こうして恋人に別れを告げられた事でものすごく混乱している。
頭の中は冷静でも、体はそうはいかないみたいで、気づいたら恋人に平手打ちしていて、気づいたら走っていて、気づいたら「ココハドコ、私ハ誰」状態に陥っていた次第である。
河川敷の芝生の上に意味もなく体育座りしてみる。なぜか涙が溢れる。目は痛くなるし呼吸はしずらいしで泣くのは好きじゃないのだが勝手に涙は溢れるのだ。よっぽど私はアイツが好きだったのか。
いや、女というのはどうやら、ヒステリックになるよう造られているらしい。

「おい」

しばらくそうしていたら不意に誰かに声をかけられた。顔をあげれば赤髪のお兄さんが眉間に皴をよせていた。まさかここはなんかのチンピラとかの縄張りだったのだろうか。冗談じゃない。

「…なんですか」
「なんでお前泣いてんだよ」
「つい先刻、長年連れ添った恋人に別れを告げられまして」
「フラれたのか」
「違います。別れを告げられたんです」
「同じだろ」

赤髪のお兄さんは短いため息を吐くと何を思ったか隣にどっかりと座った。

「で、お前はそれがショックだったと」
「そりゃ、まぁねぇ…」
「ま、フラれちまったモンはしょうがねぇ。さっさと前向くことだな」
「なんで初対面のあなたにそんなこと言われなくちゃならな、」

そこではっとした。初対面、そう言った時に赤髪の彼の目に悲しみなのかなんなのかはよく分からないけど、悲しみに近いものが写ったから。なんで、そんな目をするの。初対面を気にする人なんて初めてだわ。

「ま、とにかく前向けよ。恋人なんざまたできんだろ」
「どうかねぇ。もう賞味期限切れだよ」
「お前なら大丈夫だろ」
「さぁ、どうだろうね」
「お前をどっかからでも見守ってるヤツがいるかもしれねぇぞ」
「そりゃありがたい」

なんだコイツ。すっごくいいヤツ。しかも一緒にいると懐かしい気持ちになる。なんでだろう。まるで、私の知らない過去を知ってるみたい。
すっと立ち上がった赤髪は私を見下ろして笑った。あ、なんか優しい笑顔。この赤髪さんにもこんな表情できるんだ。

「ま、元気だせよ。…じゃあな、名前」
「…名前、どうして…」
「さあ、なんでだろうな」

にやりと笑ったかと思ったら次の瞬間にはその姿はどこにもなかった。
あ、名前聞いてない。


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