「あーもー疲れた。疲れた疲れた疲れたー!!サソリのばぁーっか!」
「ふん。約束は約束だ」
アジトへの帰路で俺の後ろをよろよろ歩く名前をちらりと見ながら顔を外套の衿に沈める。こうすれば自然と上がる口角を隠せるからな。
「もうだめ。歩けない。サソリ、私を抱えなさい。これは命令だ」
理不尽な命令にため息をつきつつも数歩歩みより肩に抱える。もっと丁寧に扱えだの頭に血が上るだのぶーぶー文句を言ってくる名前を抱える腕に力を込めれば、ぐぇっと声をだして静かになった。
しばらくの間俺たちの間に無言の時が訪れる。が、その沈黙も名前の笑い声?に掻き消される。
突如くすくす笑い出したコイツに冷たい視線を注げば、顔をこちらに向けてくすりと笑う。
「サソリは優しいね」
「…」
「だから私はサソリが好きだよ」
「…そうか」
「サソリは嫌い?」
「なにを」
「私のこと」
好き。嫌い。
そう問われれば好きだと言う。
だがただの好きじゃない。
この感情がなんなのか分からなくて、何も答えられなかった。急に黙り込んだ俺に名前は再び笑った。
「わかんないかぁ」
そう言いつつも名前は全てを見透かしているようだった。
好き、か。
俺はたしかに名前が好きだからそう言えればよかった、のに。
好きと言ってしまえば、君がどこか遠くへ行ってしまいそうで怖かったんだ感情など、とうの昔に捨てたはずなのに。
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