「君がサソリだね。」
里を捨て、暁に入った初日の夜。空にはでかい満月が昇っていて、雲に隠れたり、かと思えば雲から顔を覗かせたりを繰り返していた。
アジトの近くにあった絶壁で一人になっていた。片膝は絶壁の上におき、もう片膝は絶壁から投げ出すように腰掛け、満月を眺めていた。
不意に右肩に何かが触れられ冒頭の言葉が頭上から降ってきた。
言葉の発せられた方を見れば、こちらに向けて腰をかがめているのか、影になって顔はよく見えないが、髪の長さからして女が立っていた。
「…誰だお前は」
「こどものおもりは好きじゃないんだがね。リーダーも余計なことを押し付けてくれたもんだ」
俺の問いに女は答えずに続けた。一瞬だが月が雲から顔を出す。
あ、今見えたかも。
「そう言うお前も見た感じガキだがな。俺の名を知ってるならお前も名乗るのが礼儀ってモンだろ」
「でも君の目をみたら気が変わった。君となら上手くやれそうだ。よろしくね、サソリ」
「おい、人の話は無視か」
いきなり目の前に現れて、べらべらと喋る女を睨みつければ女はへらりと笑って肩から手を退ける。ゆらり、と動く女の左手には玉と刻まれた指輪が光っていた。
女は再びゆらりゆらりと動き俺から一歩、二歩と遠ざかりくるりと回ってから名乗った。
「名前」
雲の切れ間から月が顔をだし、女の顔を照らし出す。どう見ても年下だろコイツ。
「私の名は名前だよ」
神様が与える試練は、時に優しく時に残酷だこれが、アイツ、名前との出会いだった。
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