珍しく真剣な目をして「任務」とだけ言ってくるりと踵を帰した名前に、違和感を覚えながら外套を羽織り後を追う。
普段なら騒がしい名前が無言で道を行く。なんだか妙な気分だ。嫌な予感がする。
横に並び、ちらりと横顔を見れば名前はどこを見ているのかが分からなかった。時折立ち止まり、木の幹にもたれ掛かり心臓あたりをぐっとつかみ苦しそうに顔を歪める。
「おい」
声をかければコイツはいつものように笑う。
「大丈夫。行こう」
何が、大丈夫だ。嘘つくの下手くそだな、コイツ。
道中で甘味屋を見つけた。その途端、名前は目を輝かせ、いつものように俺の名を呼んだ。
「ねぇサソリ、甘味屋行こうよ」
「馬鹿か。これから任務だろうが」
いつものようにそう言えば名前はいつものように「なら帰りに寄ろうね!」そう返してくると信じてた。
だが名前は何も言わずに甘味屋へ突き進む。慌てて後を追い引き止めれば名前は困ったように笑いながら言った。
「最後の任務になるかもしれないんだから、時には甘えさせてよ」
眉間に皺がよるのが分かった。
最後?何を言ってるんだこの女は。
「名前、お前」
名前の笑顔はいつものように爽やかではなかった。どこか悲しみを帯びていて、俺を見つめる双眼は、直接俺を見ていなかった。何か見えない壁を通して俺を見つめていた。
それがなんなのかは分からなかった。否、分かりたくなかった。
神様はぼくたちを待ってくれない残酷な存在だったんだ幸せは、いつかは崩れるものなんだって、とっくに知っていた。
幸せだなんて、最初から存在しねぇんだ。
- 10 -
← | →