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※現パロ

「あ」

右隣で油絵を描いていた赤毛がふわりと揺れたと思いきやすごい勢いでオイラのわき腹にめり込んできた何かに激痛を覚えた。

「いって…!!」

なんだこりゃ、とそれを確かめるとなんの変哲もない筆だった。あれ、これ旦那のじゃね?そうだろ?うん?右隣にいる赤毛をみれば案の定、こっちをいつもの目で見ている。なるほど、これは旦那が投げてきたやつか。どんだけ力込めてんだよ。うん。

「なにすんだよ旦那。うん」
「絵の具が切れた。買って来い」
「それを伝えるためだけにオイラに向かって筆を投げたのかい?!」
「それ以外に何の理由がいる。早く買って来いこの糞髷」
「やだね!旦那のその態度、気にくわねぇ!うん!」
「ほう。俺に歯向かおうというのか」

すぅ、と細くなった旦那の目にぞわっとした。

「わかった!わかったから!行ってくりゃいーんだろ、うん」
「ケッ、さっさといきやがれ」

こんなに性格悪くても顔だけはいいからな。あと悔しいが才能もある。旦那は挫折ってーのを知らねえんだろうな。だからあんなに歪んでやがんだ。

「おーい全部聞こえてんぞー。なんならこの変な粘土の物体、壊してやってもいいんだからな」
「それだけは勘弁してくれよな!うん」

慌てて鞄を持ち近くにあるデパートへ向かう。早くしねえとオイラの芸術品たちが危ねえ!!

大分前からあるというこのデパートは、古いながらも高級感がある。この雰囲気がなかなか好きなオイラは、この建物の7階にある文具屋を贔屓にしている。
エントランスロビーに入れば丁度エレベーターが来ていた。走れば間に合うぞ!そう確信したオイラは更にスピードをあげた。しかしオイラを嘲笑うかのようにエレベーターの扉が閉まり始める。その時、ふとエレベーターガールが見えた。

「のっ、乗りまーす!!」

とにかく必死に叫んだ。エレベーターガールは驚嘆した顔をして慌てて扉を開けてくれた。そこへちょうど駆け込んだオイラ。
ぜー、ぜー、はー、はー
久しぶりに全力で走った。呼吸を整えるために片手を腰にあて、反対の手で膝に手をついていたら上から優しい声が何階ですか?と尋ねて来た。

「7、階を…ぜぇ、ぜぇ」

頼む、
言いかけたとき、オイラは一瞬、言葉を失った。エレベーターのボタンと向き合うエレベーターガールの横顔が芸術的過ぎた。顔に熱が集まってくるのが分かった。
どきん、どきん
おおおおお。なんだこれは。どっ、どきどきすんぞ?!うん?!

ちん

「…お客様?」
「うん?」
「7階ですよ」

訳のわからない感覚に狼狽していたらあっという間に7階についていたらしい。しどろもどろしながら降りた時、エレベーターガールがどうぞごゆっくり、とニッコリ微笑んで来て更に顔が熱くなった。
しばらくはそのエレベーターの前で呆然と立ち尽くす。はっとして慌てて文具屋へ向かい絵の具売り場へ。

「さて、えーっと、絵の具絵の具ーっと…うん?あれ?」

何色か聞いてくんの忘れた。


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テーマ「人外ファンタジー」
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