細い奴だ。
これが真田から見た手塚の見た目に関する感想である。
トップクラスのテニスプレーヤーとしてあれだけの運動量をこなし、相当の筋肉もついているはずなのにまったくそうは見えない。身長に体重が追いついていない良い例である。

それに引き換え。
真田は口に運んでいたフォークを置き、自分の身体を眺めてみた。

腕にも足にもしっかり筋肉がついているのは、普段の鍛練の賜物である。誇らしいことではあるのだが、女子としてはいかがなものか。筋肉がついているせいで腕も足も人より太いし、そう、

(……手塚の方が細くないか……?)

それが彼女にとって目下の悩み事であった。

「真田?どうした、調子でも悪いのか」

思わずじっくりと考え込んでしまった真田に、彼女の向かいでショートケーキを口に運んでいた手塚が怪訝そうな顔を向けた。

「ああ、いや……何でもない」

その細い腕を恨めしげに睨み、真田はフォークをガトーショコラに突き刺す。

今日は、珍しく青学テニス部と立海テニス部の休日が被り、久しぶりに二人でデートに出掛けていた。行き先は、真田の甘いもの好きを考慮してのスイーツバイキング。手塚も甘いものは好きな方なので二人のテーブルには随分な量の皿が積み重なっている。

――これをもう少し控えれば多少はマシになるのではないか?
筋肉を落とすわけにはいかない。だが細くなりたい。ならば脂肪を落とすしかないのではないか。
ここに立海テニス部のメンバーがいたら「むしろお前はもっと脂肪をつけたらどうなんだ」と言ってくれただろうが、生憎今は手塚しかいない。その手塚はといえば、自分の次の目標―どうやらプリンアラモードにしたらしい―を取りに行っているところだ。

真田は一人何かズレた決意を固めると、戻ってきた手塚を(というかプリンアラモードを)見ないように視線を窓の外に向けた。
手塚の視線が突き刺さる。

(気になる!頼むからこっちを見るな!)

多分いつもより食の進まない自分を心配してのことなのだとは思う。だが仮にも好いた男にじっと見つめられ、平静を保っていられるほど真田は出来た人間ではなかった。だがそれを素直に表すこともできず、ややムキになって道行く人々を眺めることに専念する。
休日ということもあり、若い人達が目立つ。主にカップルだが。

(………あ)

ふと、手塚と同じくらい細い男が目についた。派手なファッション、顔立ちもかなり整っており、女性たちがちらちらと視線を向けている。

(だがあいつは筋肉がついていないな。その点手塚は、あれでいて筋肉はしっかりついている)

うっかり抱きしめられた感覚なぞ思い出して、真田は一人赤面した。



さて、面白くないのが手塚である。
久しぶりに会った恋人は何が気に入らないのか先程からこちらを見てくれない。おまけに見知らぬ男の姿を目で追っては頬を染めている。苛々ゲージはマックスだ。

「真田」

振り向いた恋人に、スプーンに乗せた一口を差し出す。

「……何の真似だ、手塚」
「食べろ」
「は?」
「良いから食べろ」

俗に言う「はい、あーん」状態である。性別が逆な上、色気もくそも無かったが。

「いや、私は遠慮しておく」
「何故だ。やはり調子でも悪いのか?」
「そういう訳ではないのだが……」
「ならば食べれば良い」
「そういう問題ではないわたわけがっ!」

真田は引き攣った顔で拒絶した。
何しろ先程から店内全員この美男美女カップルをガン見である。ダイエット云々以前に、羞恥心の問題だ。だというのに手塚はぐいぐいスプーンを押し付けてくる。

「食べろ」
「食べない」
「何故だ」
「何でもだ」
「良いから食べろ」
「いいや、食べない」

果たして自分たちはプリンアラモードを挟んで何をしているのか。

「………もう、放っておいてくれ」

真田は虚しくなって意地の張り合いをやめた。何が悲しくて久しぶりに会った恋人とこんなくだらない喧嘩をしなくてはならないのか。すべては「手塚さんって色白で細い女の人好きそうッスよねー」と無邪気かつ的確に人の心をえぐっていった赤也が悪い。明日会ったら殴る。

「私はダイエットをすると決めたのだ、邪魔をするな!」
「……………………………………………は?」

半ばやけくそで言い放った真田の一言に、手塚から反応が返ってくるまで丸5秒の沈黙。
その後すぐに、彼は眉をひそめた。

「誰に何を吹き込まれた?」
「は?」
「ただでさえ脂肪というものと縁遠いお前がこれ以上痩せてどうする。人間やめる気か」
「なっ……悪かったな胸がなくて!!」

誰もそうは言っていない。

手塚の思うところとは別のところに引っ掛かったらしい真田は、ほとんど涙目で彼を睨んでいる。
その様が可愛かったのでキスをした。

「!?」
「そのままのお前が一番可愛い」

目を白黒させている真田に本心のままそう言うと、その頬が赤く染まっていく。
あまりの可愛さに理性を旅に出して再びキスをすれば、真田は椅子をひっくり返す勢いで立ち上がった。

「どうした?」
「………とってくる!」

皿を鷲掴んで大股で闊歩する中三女子。なかなか勇ましいぞ。
心の中でそう呟いて手塚は残りのプリンアラモードを一気に流し込んだ。





女の子真田は正義


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