校内にあるシャワーを浴びて部室に戻ってきた真田は、目の前の光景に眉をひそめた。
端的に言えば、丸井と赤也が取っ組み合いの喧嘩をしている。
この暑い中ご苦労なことだ……と思いながら真田は柳に顔を向けた。
「……何事だ?」
「くだらないぞ」
暑さがこたえるのか、柳もだるそうに返事をしてくる。
「ソフトクリームはバニラ派かチョコレート派かで喧嘩している」
思った以上のくだらなさに真田は目眩を覚えた。
「ちなみに丸井がバニラ派、赤也がチョコレート派だ」
「……個人の好みだろうがそれは」
「俺も再三そう言ったがな」
聞きやしないのがガムレッドクオリティ。
普段なら仲裁に入ってくれるジャッカルはまだシャワー室から戻ってきておらず、幸村は定期検査のため今日は休みだ。
柳と柳生、仁王の視線を受け、真田は嫌々ながら二人の間に割って入った。
「貴様ら、くだらんことで喧嘩をしている体力があるならグラウンド走ってくるか?」
「げっ、真田」
「副部長!」
目を輝かせた赤也が飛びついてくる。暑い。
「離れろ暑い」
「副部長は当然チョコレート派ッスよね!」
「知らん」
ばっさり切り捨てると、丸井までしがみついてきた。
「真田真田真田!真っ当に考えてバニラだよな!」
「だから知らんと言っている」
「いーや、チョコレートッスよ!」
「おい、」
「バニラ!」
「チョコレート!」
「ちょっ……いい加減落ち着け貴様ら、俺を挟んでいがみ合うんじゃない!いっ……痛い痛い痛い痛い!!」
大岡裁きだなと暢気に呟く柳の声が遠く聞こえる。
両方から赤也と丸井(=馬鹿力)に引っ張られ、真田はほとんど涙目で叫んだ。
「マンゴーだ!」
瞬間、部室は沈黙に包まれた。
「おーい、あとシャワー浴びる奴いるか……って、どうした?」
タオルを首にかけ、爽やかにドアを開けたジャッカルが異様な空気に首を捻る。
「……帰るか」
「そッスね」
「帰りにかき氷でも買っていくかのう」
「桑原君も行きましょう」
「お、おう……」
それを機に、訳の分からぬジャッカルを連れてレギュラーの面々はそそくさと去って行った。
ミッションコンプリート。
「恩に着るぞ、蓮二」
「何、俺もどうにかしたいと思っていたところだ。気にするな」
握った真田の拳から、「マンゴー」と走り書きされたメモ用紙がちらりと覗いた。
何か分かりづらい話になった。
柳が丸井と赤也に引っ張られて困っている真田のために、真田では考えられないような答えを言わせた、みたいに受けとってもらえるとありがたいです。
ちなみにうちの真田はソフトクリームはバニラ、かき氷はブルーハワイ派。