百物語 | ナノ


▼ 1.赤いアザ〈緑間〉

1.赤いアザ〈緑間〉


…む、最初は俺か。まあ、来たからには人事は尽くすのだよ。
今回俺が用意してきた話はほとんどが実体験だ。お前たちも知っている通り、俺はそういう体験には事欠かないからな。何から話そうか…そうだな、語り始めでもあることだし、軽めのものにするのだよ。
四年前、俺が中一だった頃の話だ。

丁度今と同じ時期だった。もしかしたら赤司と青峰、紫原は覚えているかもしれないが、小学時代にお世話になったピアノの先生が亡くなられたので俺は部活を休んで葬儀に参列した。本来なら俺の両親も同行する予定だったのだがどうしてもはずせない用事が入ってしまってな。俺一人でお焼香をあげ、棺の中の先生を少しだけ見せていただいたのだよ。
先生の左頬にはアザがあった。
赤いアザだ。後から考えると彼岸花に似ていたような気がするのだが…生前の先生にそんなアザはなかった。不思議に思ったが小学校を卒業してから先生と会うこともなかったし、知らないうちについたのかもしれないと自分を納得させたのだよ。
だがその直後、俺の次に焼香した人の左頬にも同じアザがあることに気が付いてしまった。
お前たち、そんな偶然があると思うか?俺は不審に見えない程度に会場を見渡してみた。するとどうだ、そこにいる全員の左頬に赤いアザが浮き上がっているではないか。俺は驚いて、持っていた手鏡―もちろんその日のラッキーアイテムだ―で自分の顔を見てみた。
俺の頬にはアザは浮かび上がっていなかった。
その時は柄にもなくホッとしたのだよ。俺にはそのアザが良いものだとは到底思えなかったからな。やれやれと息をついて鏡から顔を上げると―――

『貴方、見えているの?』

―――うるさいのだよ火神。この程度でいちいち悲鳴を上げるな。
不自然なほどの満面の笑みで俺の前に立っていたのは、黒衣を纏った若い女だった。女は咄嗟に動けなかった俺の頬に黒いマニキュアを塗った指を伸ばし、一撫でしたがすぐに忌々しそうに顔を歪めた。

『嫌ね、貴方一体いくつの神様に護られているの?これじゃ連れていけないじゃない』

その直後だったのだよ。携帯に赤司から緊急ミーティングを開くから都合がつき次第部室に来てほしいというメールが入ったのは。
気付くと女の姿はすでになく、俺は嫌な胸騒ぎを覚えて先生の親族の方に辞去を告げて葬式会場を出た。

この先はニュースにもなったからほとんど全員が知っていることだと思う。
俺が会場を出て5分としないうちにその建物の屋根が崩れ落ち、中にいた人は全員亡くなった。

轟音を聞いて慌てて戻った俺は、妙に納得したのだよ。
あの赤いアザは『あちら』へ連れて行かれる証だったのだと。
お前たちの身近でも、突然左頬に赤いアザができた奴はいないか?いたら注意するのだよ。

うっかり近づきすぎて、黒衣の女に目をつけられないように…






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