短編 | ナノ

 2

「とにかく、緑間っちはもっと危機感を持って下さいッス!!」
涙目でそう訴える黄瀬に、緑間ははてなと首を傾げた。
「心配せずとも俺は喧嘩はそう弱くはないつもりだが」
「そっちじゃなくて!!あんたさっき自分が何されようとしてたか分かってないっしょ!?」
「流石にくすぐりによる戦意喪失戦法に出られるとは思っていなかったが次はこんな不覚はとらないのだよ。くすぐりに慣れるように人事は尽くす」
「分かってねえ!!やっぱりこの人何にも分かってねえ!!」
一歩どころか二歩三歩ずれた返答をする緑間に黄瀬はその場に崩れ落ちる。そっと肩に置かれた紫原の手が痛い。精神的に。
「……青峰」
「お前、犯されそうになってたんだよ!」
遠回しに言っても無駄だと判断した赤司により次の説得要員は青峰に決まる。その要望通り事実をずばっと言ってのけた青峰だったが。
「お前、そこまで女に飢えているのか……。黄瀬や黒子ならともかく、俺が女に見えるとは重症なのだよ。赤司、早くこいつを病院に、」
「お前俺を何だと思ってんだよ!!ぶち犯すぞ!!」
何故か可哀相な物を見る目で見られた。俺悪くない。ついでに最後の発言のせいで赤司と黒子に背中に蹴りを入れられたが後悔も反省もしていない。日常茶飯事だ。
―――緑間真太郎の神懸かりとさえ言える鈍感さは、何も今始まったことではない。
希代のバスケプレイヤーでありながら華奢な体躯。日に焼けると赤くなってしまう程脆い白皙の肌。静謐な佇まいの中に時折幼さを覗かせ、どこまでも我が道を突き進む為純粋で無垢。緑間真太郎という人間に少しでも深く関わった者たちは例外なくその奇妙なアンバランスさに惹かれ、手の内に収めることを渇望する。そのために強行手段に出る馬鹿も、キセキが把握している限りではこの一年で二十はくだらない。言い直せば緑間は一年で二十人以上の男に襲われているのである。
だというのにこの鈍感大王はと言えば、押し倒されればレスリングが何かかと勘違いし、きわどい所に触れられても急所を狙われただけだと思い、あまつさえキスされそうになっても「今回は随分と体を張った嫌がらせだったのだよ」と平然と宣うのである。キセキが何度言い聞かせようとも自分がそういう対象であると考えもしていないせいかまるで効果ナシ。正直皆頭が痛い。もういい加減見捨てようかという考えが頭を過ぎったこともないわけではないが、そこはそれ、今までそれが実行に移されたことはない。いわゆる惚れた弱みというやつである。
だがしかし彼らにも堪忍袋というものは存在する。そしてその袋は、今回の件でついにキャパオーバーを迎えた。
「緑間」
空恐ろしい笑顔を浮かべた赤司ががっちりと緑間の肩を掴む。
「ゲームをしようじゃないか」
「ゲーム?」
「そうだよ。お前があんまりにも鈍すぎるのがいけないんだ、真太郎。言葉で伝わらないなら行動で分からせないとね」
にこにこ、にこにこ。赤司はこんな擬音が聞こえてきそうな程満面の笑みを浮かべているが、目が笑っていない。それどころか完璧に据わっている。緑間は本能が命じるままに逃げを打とうとしたが、背後に回った紫原にあっけなく阻止された。
「一週間だ。一週間、俺達はあらゆる手段でお前を口説く。もちろんある程度の実力行使も厭わない。そうすればどんなに鈍いお前だって今まで自分がどんな目で見られていたのか分からない筈がないだろう。そして一週間後、」
ごくり、と誰かの喉が鳴る。急に友人たちの雰囲気が変わったような気がして緑間は慄いた。剥き出しの二の腕がやたらと寒い。
恐怖という最も妖艶な色気をそれと知らず零す想い人に、赤司は唇を吊り上げた。
「――一週間後に、お前が一体誰を選ぶのか。その答えを聞かせてもらうよ」









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リハビリ



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