短編 | ナノ

 キセキのキセキによるキセキのための


緑間真太郎は押し倒されていた。
委員会の仕事で部活に来るのが遅れ、やや早足で部室を出た直後のことである。いきなり同級生数名に囲まれ、三軍用の薄汚れた部室に連れ込まれた。よくよく顔を見てみると最近練習に参加せず、赤司が退部勧告を出していた三軍のメンバーである。状況を理解し、緑間はまたかと密かにため息をついた。
キセキの世代に何らかの遺恨がある連中が標的を選ぶ時、高確率で候補に上がるのが緑間である。なんせ他は明らかに逆らってはいけないオーラが出ている赤司と人一人殺っているような面構えの青峰、巨神兵紫原、ヤンデレ狂犬黄瀬である。誰だって背は高いが華奢で、知らない人が見たら文学少年だと勘違いするような緑間に手を出したくなるだろう。ちなみに同じく文学少年に見える黒子は影が薄すぎてまず発見が困難なので実は一番被害が少なかったりする。
そんな訳で緑間はキセキに面白くない感情を持つ連中に頻繁に呼び出しを受けていたのだが、よく考えて欲しい。彼はキセキの世代No.1シューターの異名を持つバスケプレイヤーである。あの超人3Pを撃つ腕力がいかほどのものかと言えば、「キセキ腕相撲大会(別名赤司不在時の暇つぶし)」で紫原を下し頂点に君臨し続けている程度だ。十分すぎる。また、大人びているように見えてもまだ中学三年生。売られた喧嘩は定価五倍で買い取りたいお年頃である。さて今回もその手の呼び出しか、と内心わくわくしていたらいきなり足払いをかけられ、冒頭に至った訳であるのだが。
「緑間ァ……さすがに何されるかは分かるよな?」
「暴力沙汰はお勧めしない。左手を痛めたくはないからな」
「大丈夫大丈夫、痛いことなんてしねーから」
なー?と小首を傾げる男に吐き気を催して顔を背ければ、無躾な手が脇腹を撫であげてきた。思わずひっと息が漏れる。よく知られていないことだが、緑間はくすぐりに弱い。
その反応に気を良くしたのか、男は更に調子に乗って体中撫で回してきた。身をよじろうにも四肢を他の連中にしっかり押さえ付けられており、くすぐられて力が入らないことも手伝ってその手の動きを甘受するしかない。
「なあ緑間ァ、感じてんのか?」
「はっ……?意味がわからな、んっ」
「おい……予想以上にやべえぞこいつ」
間近で緑間の顔を見ていた男が生唾を飲み込んだ。
「やっぱりキセキの連中とよろしくやってるって噂は本当なのか」
「よろしく……?まあ仲は悪くないと思うが、っ」
「相手にすんのは一人ずつか?それとも全員一気にか?選ばせてやるよ」
「1on1はよくするが3on3が多いな、んっ。大体黒子と1on1は出来まい」
「何だ複数プレイかよ。好きモンだな」
「まあ1on1とはまた違った楽しさがあるからな。……ひっ。やめろ、ああ、特に黒子と組んだ時はなかなか、」
さて続く言葉は一体何だったのか。
意思の疎通がまったく成されていない会話に強制的に終止符を打ったのは、めきゃっという何かを――そう、まるで扉のような物を壊した音だった。
「………さて」
鍵が掛かっていた筈の扉の方からブリザードが吹き荒れる。いや、ブリザードの方がどれほどマシだったか。
「青峰、黄瀬、紫原、行け」
深紅の瞳を怒りで燃え上がらせた赤司の号令と共に、三人の巨人共が緑間にのしかかっていた連中を吹っ飛ばした。顔面、鳩尾、股間と殴る場所がえげつない。というか黄瀬、モデルがそんな般若面をするんじゃないのだよ。
強く押さえ付けられていたせいで痺れた手足を庇いながら緑間が起き上がると、赤司と黒子が駆け寄ってきた。
「大丈夫ですか、緑間君」
「あのクズ共に何をされたんだ真太郎」
赤司の目が完全に据わっている。ここで素直に答えたらあいつらは死ぬなと直感したので緑間は言葉を濁して黒子の頭を撫でた。
「すまない黒子、大丈夫なのだよ」
「いえ……無事で良かったです」
黒子ばかり撫でられてずるい!と赤司が喚いたタイミングで紫原が緑間を襲った最後の一人を床にたたき付け、身体的制裁は完了した(もちろん後に赤司と黒子による精神的制裁が待ち構えているが)。
さあここからは、キセキによる緑間お説教タイムの始まりである。





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