短編 | ナノ

 【第179Qネタバレ】越えたい背中と追いつきたい背中の違い



越えたい背中があった。





緑間が帝光中に入学し、バスケ部に入った時から奴は「特別」だった。
背こそ自分より低いが、勉強もバスケも、人を引き付けるそのカリスマ性も、全てにおいて奴は緑間の上に君臨し続けた。
そして自分に微笑むのだ。

「僕に勝てるかな?――真太郎」

いつか必ず越えてやる。
幼いあの日、彼は歯を食いしばってそう誓った。

そして今――












「いつまで座ってんだバカ
撲殺すんぞ」

ぱかっという間抜けな音と力加減で殴られた時、緑間の視界に入ったのはその背中だった。
4、5、8。
秀徳バスケ部を背負う背中が堂々と歩いていく。
思い返せば、否、わざわざ思い返す必要などないくらいに、彼らと共に過ごした。
厳しく苦しい練習の時も、涙を流した試合の時も、馬鹿みたいなことで騒いだ合宿の時も、この背中は自分たちの前にあった。

高尾の思い出話なぞ聞かなくても思い出せる。
容赦なく叱ってくれる優しさも、
「緑間のシュートだけで勝ててつまらない」と言われた時の驚きと嬉しさも、
ただの一年生として悪態をつかれて、それでも面倒を見てくれることに対するくすぐったさも、
全部全部覚えている。忘れない。

その広い背中にどれだけ救われてきたかなんて、忘れられるはずがない。


きつく唇を噛み締める。
腹の奥底で何かがとぐろを巻いていた。
帝光に居た時には知り得なかった爆発的な熱情が唸りを上げて目を覚ます。


諦めるのか。
また赤司に頭を垂れるのか。
大坪先輩の、宮地先輩の、木村先輩の前でみっともない姿を晒すのか。
ここで終わるのか。
諦めるのか。

先輩たちとするバスケを諦めるのか!!




諦めて、たまるか。




歯を食いしばって叫んだ。諦めたくない諦めたくない諦めない!!
その瞬間、緑間の意識は一気に覚醒した。
高尾の言う通りだ。自分はまだ先輩たちと試合がしたい。バスケがしたい。一緒にいたい。
ごまかせない感情が溢れ出す。

その時の、一瞬の緑間の表情を一体誰が見ただろうか。
彼は笑った。普段見せるシニカルなものではなく、最近見せるようになった微笑みでもなく、
純粋に、そう、純然たる闘志を浮かべて獰猛に笑んだ。

洛山のざわつきも、驚いたような赤司の目も今の緑間の視界には入っていない。
ねめつけるは洛山の4番。見つめるのは秀徳のユニフォーム。
まだだ。
まだ諦めない。


あの背中が見える限り、何にだって勝てるに決まってるんだから。





実渕の言う通り、緑間には足手まといがいた。もちろん緑間自身が否定したように秀徳のメンバーではない。
今なら言える。足手まといになっていたのは中学の自分。赤司に憧れ、怯え、ただ盲目的にその背中を追っていた、緑間そのものだった。




越えたい背中があった。けれど、その背中と並びたいとは思わなかった。ただがむしゃらに、追い越してみたかった。
追いつきたい背中がある。隣に並んで、一緒にバスケをしたい。けれど矛盾するように、いつまでも前にいてほしい、ずっと追いかけていたい背中がある。

その背中の違いはとても大きいのではないかと、緑間は思うのだ。






何だかんだ言って先輩たち緑間のこと好きだよね。緑間も先輩たちのこと尊敬してるよね。って思ったら何か泣けた




(→)





prev|next

back

「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -