短編 | ナノ

 赤緑

(赤緑)

※帝光時代



「ポッキーゲームをしようよ、緑間」
そう言ってお馴染みの赤い箱を差し出す赤司に、緑間は露骨に胡乱な目を向けた。
「………そういうのは紫原とやれ」
「そこで女子とやれとは言わないんだね」
「お前相手にポッキーゲームなんてしたら普通の人間は卒倒するのだよ」
「失礼な」
あながち間違ってないなと自分でも思うが、話の流れ上一応抗議をしておく。緑間はふんと鼻を鳴らすと、それきり興味を失ったように帰り仕度に戻った。
つまらない。
主将・副主将として部活終了後監督といくつか話し合いをしていたため、部室にはもう赤司と緑間しか残っていない。赤司だってまだ中学生だ。好きな人と二人きりといったら何かしたくなって当然だろう。
赤司は緑間の足元に置かれた等身大ペコちゃん人形(お察しの通り本日のラッキーアイテムである)をひょいと自分の手元に引き寄せると、冒頭の台詞を繰り返した。
「ポッキーゲームをしようよ、緑間」
「………一回だけだ」
ペコちゃんを人質にとられた緑間に選択肢はない。鞄を足元に置き、帰る体制を整えて赤司の差し出すポッキーを口にくわえた。わざわざチョコレート側を選んだのはささやかな仕返しだ。
赤司は認めたがらないが二人の間には20cm近い身長差がある。自然と緑間は赤司の方に身を寄せて屈む形になり、赤司はどきりと胸を高鳴らせた。
早く帰りたいのかさくさくさくさくと何の躊躇いもなくポッキーをかじっていく緑間に対し、赤司はなかなか動けない。段々迫って来る緑間の顔を見つめて相変わらず美人だな俺の緑間マジ天使とかくだらないことを思うので精一杯だ。ポッキーを食べるという行為がこんなにも難しいことだったとは知らなかったよパトラッシュ。現実逃避に勤しむ彼は既にポッキーゲームなどという恋人同士の遊びに緑間を誘ったことを後悔していた。駄目だこれ、俺の心臓がもたない。
赤司が硬直している間にも、この状況を赤司の悪ふざけとしか思っていない緑間はさっさと顔を近づけてくる。ついに緑間の顔が鼻先が触れ合うくらいまでに近づき、彼のトレードマークでもあるアンダーリムの黒縁眼鏡が頬を掠めた瞬間、赤司は完全にキャパシティオーバーを迎えて勢い良く飛びのいた。そしてがったんと盛大な音を立ててロッカーに衝突した。
「赤司!?」
冷静沈着を絵に描いたような彼には珍しい失態に、緑間は目を剥いて駆け寄る。その手を借りて立ち上がりながら、赤司は何とか平静を装った。
「大丈夫だ緑間、ちょっと立ちくらみがしただけだから……。ああ、あとは俺がやっておくからお前はもう帰って良いよ。付き合わせて悪かったね」
「いや、それは構わないが……本当に大丈夫か?」
「ああ、問題ない」
嘘だ大有りだ。むしろ問題しかない。この爆発しそうな鼓動とか、気を抜けば真っ赤になりそうな耳とか。
だがそれを面と向かって本人に言う訳にもいかない。赤司は苦笑いでごまかしながら何とか早く緑間を帰らせようとした。その努力が天に通じたのか緑間はそれ以上突っ込んでくることもなく、鞄とペコちゃん人形を手に部室を出る。ペコちゃん人形を抱える中三男子。何てシュールな光景だ。
そして気を抜いた瞬間にそれはやってきた。
「そういえば赤司」
「どうした?」
「初めてお前に勝ったぞ」
「……は?」
思わず振り返った緑間を見上げ――ちょっと待て頼むから。
「ポッキーゲームは先に口を離した方が負けだろう?俺は、初めて、お前に勝ったのだよ」
本当に嬉しそうに。レア度120%の笑顔を振り撒き、緑間は部室のドアを閉めて去っていった。
取り残されたのはその満面の笑みに見事にハートを撃ち抜かれた赤司一人。
嗚呼、惚れた者負けとはよく言ったものでして。
「………俺の緑間マジ天使っ……!」
結局、自分が赤司に勝ち続けていることに気づかないのは緑間だけなのだ。





***********
何だこの著しい緑赤臭。予想以上に赤司様が女々くなった……orz
真ちゃんに甘いというか弱い赤司様とか良いんじゃないかな



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