短編 | ナノ

 紫緑

(紫緑)

※帝光時代



「ミドチンあーん」
休日の練習が始まる少し前、ジャージに着替えた緑間にぽてぽてと近寄ってきた紫原が何かを差し出してきた。条件反射的に口を開けると、ふわりと甘い味が広がる。
「……ポッキーか?」
「期間限定おしるこ味だよー。ミドチンに買ってきたんだ!」
首を傾げる緑間に、茶色っぽい箱をひらひら振って笑う紫原は大層ご満悦のようだ。緑間は先程の一本をゆっくり咀嚼すると、存外悪い味ではないことに頬を緩めた。
「おいしー?」
「悪くはないのだよ」
「じゃあはいこれあげるー」
「……えっ?」
はい、とテーピングの外された左手にポッキーの箱を乗せてくる紫原に、緑間の口から素っ頓狂な声が漏れる。無理もないだろう、相手は黄瀬や赤司ではなく紫原だ。お菓子に対する執着心が人一倍強い彼が、誰かにお菓子をあげる姿を見れる日がこようとは思っていなかった。気分は珍獣発見だ。
どうやら同じ気分を味わったらしい黒子が恐る恐るというように紫原に声をかけた。
「紫原君が人にお菓子をあげるなんて珍しいですね。どうかしたんですか?」
「だってミドチンが気に入ったみたいだしー。お菓子食べんの好きだけどミドチンが笑ってるとこ見る方がもっと好きだし」
紫原はへらりと笑う。黒子が何か悟ったような表情で頷いた。
「なるほど、甘酸っぱい青春の味というやつですね」
「意味が分からないのだよ」
「小さな恋のメロディです」
「黒子頼むから日本語で喋れ」
僕らの天使は今日も天使でしたとか訳の分からないことを呟く黒子から距離をとりながら(というか僕「ら」って何だ。何故複数形なんだ)緑間は紫原を見上げる。自分より背が高い人間を見かけなくなって久しいせいか、紫原の長身は緑間にとって密かなお気に入りだ。
「紫原、本当に貰っても良いのか?」
「うん、良いよ」
「そうか。………ありがとう紫原。お前のそういうところが俺は好きなのだよ」
緑間のツンデレも子供のような紫原の前では発動しないらしい。安心安定のお母さんモードに入った彼はこくんと頷いた紫原の頭を背伸びして撫でてやり、常にない上機嫌さで体育館へ向かっていった。
一方取り残された黒子は完全に硬直してしまっている紫原をそっと見遣る。顔が真っ赤だ。普段から緑間にデレてもらっている彼でも、今の一言と行為は刺激が強すぎたらしい。
「……黒ちん」
「はい」
「俺、明日から毎日ミドチンにポッキーあげるんだ」
「おしるこの方が喜ばれると思いますよ」
財布を握り締めて何やら一念発起したらしい紫原にアドバイスを送りながら、可愛らしい恋の始まりに黒子はそっと微笑んだのだった。





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紫緑マジフェアリー



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