短編 | ナノ

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拝啓、緑間真音様へ

君はさぞかし驚いていることだろう。何にかって、そうだね、僕がこんな喋り方になっていることにかな。人間歳をとると丸くなるものだよ。まあ僕の場合は「丸くなりすぎです」とよく君に言われたけどね。
僕は今日最期の眠りにつく。その前に君の疑問を解決しておこうと思う。ただしこの喋り方では君に違和感しか与えないだろうからね。昔の喋り方に戻すとしておくよ。
――さて。
俺とお前が生きる未来では、生涯に一度だけ、過去に戻って死んでしまった大切な人に会える機械が発明された。俺はそれを使って俺と出会う前――正確には高校以来の再会を果たす前、一番落ち込んでいた頃のお前に会いに来たんだ。
お前無駄なところで聡いからな。理解しただろ?
つまり、お前は俺を置いて逝っちまうんだよ。俺より年下のくせして、ふざけんじゃねえっつの。まったく最期までわがままな奴だよ。
でもさ、真音。
お前は、最期に笑って逝ったんだよ。
二人の息子夫婦と五人の孫たちに囲まれて、俺の手を握って、穏やかに笑って逝ったんだ。そんなことされちゃあさ、俺はお前を幸せに出来たんだって自惚れたって仕方ねーよな?仕方ねーってことにしとけ。
で、俺は一人になって考えた訳だ。
俺と付き合う前、高尾に捨てられて自殺まで考えかねない勢いだったお前のことも幸せにできたら、って、
……今お前笑ったろ。俺だって何言ってんだこいつって思ってるよ現在進行形でな!未来の俺がお前好きすぎてドン引くわ!
うん、まあ話を戻してだな。
真音。
今は苦しいだろう。ずっと信じてた高尾に裏切られて、死にたいと思うことだってあるはずだ。
でもよ、お前の世界は高尾だけで出来てた訳じゃねえだろ。
お前は知らないままになるんだけどさ、俺らが付き合い始めてすぐ、キセキの連中が揃って俺のところに押しかけてきたんだよ。緑間を泣かしたらマジ殺すって脅し付きで。大坪と木村には女と付き合うに当たってのエチケット?みたいなの懇々と説教されたし監督には早く結婚しろって発破かけられまくったし。お前の同僚にはことあるごとにちくちく厭味言われて、ご両親には泣いてお前のこと頼まれたよ。
分かるだろ?
お前はもう一人じゃない。こんなに多くの人に愛されてるんだ。
だから真音。
笑えとは言わない。泣いて良いし、怒って良い。その全部を俺が受け止めてやるから。だから俺がお前を迎えに行くまで、お前に俺の苗字をやるまで少しだけ待っててくれ。

愛してるよ、俺の大切な恋人。




病院にて君に会いに逝く少し前
君の生涯のパートナー、宮地清志より





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