短編 | ナノ

 背中越しの恋



高尾の指がふと緑間の右手に触れた。緑間は嫌な顔一つせず、むしろ無表情で手を引っ込める。
緑間の手がふと高尾の頭に触れた。高尾は笑みを崩さないまま、さりげなく距離をとる。
部活内どころか学校中で付き合ってる疑惑をかけられる程仲の良い二人の間で交わされるスキンシップは、実は限りなく零に近かった。





最初にその事実に気付いたのは、意外にも宮地だった。いや、ある意味では順当とも言えただろう。何かと一年二人に突っ掛かるということは、それだけ二人のことをよく見ているということだ。

「お前らってさ、四六時中べたべたしてる割にはスキンシップ少ねぇのな」

今ちょうど高尾が肩に触れた緑間から距離をおいたところである。たまたま隣でドリンクを飲んでいた宮地は思わずそう指摘したが、高尾は白々しく笑った。

「そうッスか?ってかそんなこと言うなんて宮地さん案外俺らのこと見て――いでっ!」
「殴るぞ」
「もう殴ってますって!」

ぎゃんぎゃん喚く高尾にもう先程の白々しさはない。ならばと思い緑間に視線を移すと、こちらは高尾以上の狸でその仏頂面からは何一つとして読み取ることが出来なかった。冷めた濃緑と目が合って、はっと我に返る。

(いや、そもそも何で俺がこいつらのこと気にかけてやんなきゃなんねえんだ?別に仲悪いってわけでもねえし、ほっといて良いじゃん)

うん、と一つ頷いて宮地はまた練習を再開する。
けれど何となく何かが引っ掛かるような気がした。





次に首を傾げたのは黒子だった。

「君たちって実は仲が悪かったんですか?」

たまたま触れた高尾の手を払った緑間がいつもの仏頂面で黒子を睥睨する。ついでに高尾は相変わらずへらへら笑っていた。

「いきなり何を言い出すのだよ、黒子」
「そうだぜ黒子、俺と真ちゃんは大親友なんだから――」
「下僕と仲が良いも悪いもないだろう」
「相変わらず辛辣!」

ツンデレが行き過ぎた暴言を吐く緑間はいつも通りだ。先程僅かに表れた、キセキの世代にしか分からないくらいの動揺はもう見られない。
そもそも苦手な緑間の交遊関係にそれ程興味があったわけではなく、たまたま出会った先で、ふと思ったから言っただけのことだ。黒子はあっさりと追求をやめてバニラシェイクをすすった。
けれど何か割り切れない気分になったのは間違いない。





「お前、ほんとは緑間のこと苦手なんじゃねえの?」

らしいと言えば納得できる、実に遠慮のない言葉を放ったのは青峰だった。何言ってんの、と高尾がへらりと笑う。

「もしかして俺と真ちゃんが仲良過ぎて嫉妬してんの?俺のキセキなのにー!みたいな」
「赤司と一緒にすんな死ね」

こいつに声をかけた俺が馬鹿だったと青峰はポケットに手を突っ込んだ。目の前の男の手も、緑間のを払ってポケットに入っている。

(まあ別にこいつらがどうなろうが俺の知ったこっちゃねえし)

黙々とシュートを撃ち続ける緑間を横目に、別れの挨拶もそこそこにその場を立ち去った。
胸の奥に鎮座するわだかまりには気がつかないふりをした。





「緑間っち、高尾っちを逃したら後ないッスよ」

出会い頭にそんなことを言ってきた男の頭をしばいた俺は悪くない。後に緑間はそう語った。

「いっ……!いきなり何するんスか!」
「うるさい黙れ死ね息絶えろ」
「いつも以上にひどい!」

きゃんきゃん騒ぎながらも黄瀬は冷静に緑間を観察する。動揺は見られない。ただ高尾の手を振り払った腕がぷらぷらと動いている。
なんだかなあ、とひとりごちた。相変わらず小難しい性格をしている緑間は、小難しい感情を高尾と共有しているらしい。

(ま、共有できてんなら良いんじゃないッスか)

緑間には胡散臭いと評されるモデルスマイルを浮かべて話を変えた。
心の中の柔らかい部分が、ひどく痛むような気がした。





放課後の教室、高尾は校庭を眺めながら緑間に声をかけた。生憎部活は体育館の整備で休みである。

「俺らって仲悪く見えんのかね」
「知るか」

話しかけられた緑間はといえば、文庫本に目を落とし、会話する気は零である。大体いつものことなので高尾は気に留めずに話を続けた。

「何でだろーなー。スキンシップなきゃ友達でいちゃいけないの?」
「さあな」
「真ちゃんもちょっとは真面目に考えてよ!」

そうは言ったところで答えが出ないのは、高尾自身が一番よく分かっている。
だから緑間からの返事も期待せずに話を変えようとしたが、予想外に声が返ってきた。

「あいつらが知りたいのはそのスキンシップがない理由だろう」

低い淡々とした声が耳朶を打つ。緑間は目を上げない。

「………怖いじゃん」

流れる沈黙に耐え切れないと言うように高尾が呟いた。

「真ちゃんの綺麗な手。指。足。目。真ちゃんを構成するすべて。それに触って、俺が真ちゃんを汚してしまうことが怖い。だから触れない。それだけだよ」

無理矢理テンションを上げて高尾は笑みを作る。彼はまだ校庭を見ている。

「………怖いのだよ」

次の沈黙に耐えられなかったのは緑間だった。

「俺の側にいるとお前は傷つく。お前の人を惹きつける輝きを俺が奪ってしまう。それが怖い。だから触れられない。それだけだ」

何だそれ。
馬鹿馬鹿しくなって二人で笑った。

「臆病者」
「お前もな卑怯者」
「お前に言われたくねーなコミュ障」
「その言葉そっくりそのまま返してやる不器用め」

無造作に机の上に投げ出された緑間の左手に、高尾の右手が触れた。

「真ちゃん」
「何だ」
「そんな露骨に嫌そうなオーラ出さないで傷付く」
「お前がそんな繊細なタマか」
「ひっで!俺ガラスのハートの持ち主なんだからな!」
「……………へー」
「ちょっ、あからさまにスルーすんのやめて!いたたまれないから!」

緑間はまだ本を読んでいる。
高尾はまだ校庭を見ている。

















高緑の日にうpしたやつ。高緑でも緑高でも良い感じだけど高緑の日なんで高緑で。
こんなもだもだしい恋が好きです。






prev|next

back

「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -