短編 | ナノ

 届かない夜の裏側



何の変哲もない一日になるはずだったんだ。






秀徳高校はバスケ強豪校であり、バスケ部に所属してたら夏休みはほぼ部活に潰える。あと宿題な。
けど監督だって鬼じゃない。お盆休み期間は里帰りする先輩も多く、部活が中止となる。
それは他の強豪校――誠凜や桐皇、海常、陽泉、洛山もまあ変わらなかったようで。
この休みを利用してキセキ+火神が真ちゃん家に泊まりに来た。何それずるい俺も行く。

良いよね、真ちゃん!



渋る真ちゃんを上手く丸め込み、俺は「キセキ合宿」(命名火神)に潜り込んでいた。
真ちゃん家に行く前に、久しぶりに全員揃ったということで近所のストバスなう。

火神、青峰、紫原とぶっ続けで三人の相手をさせられて、正直俺は限界だった。

「だーっ、俺もう限界!真ちゃん休憩しよっ!」
「休憩したくば勝手にするのだよ。俺は黄瀬と1on1をする。あと暑いから離れろ」
「そうッスよ、俺30分も前から待ってたんスからね!」
「お前らまだすんの!?」

汗を拭いながらしれっと答える二人に目眩がする。
真ちゃんも黄瀬も俺以上にぶっ続けで動き回っているはずなのに……何この無尽蔵の体力。これがキセキの世代と言われる所以かああなるほどね。納得納得。

こりゃこの二人は休憩入れる気なんてないな、と思って別のコートで2on2をやっている黒子・火神ペアと赤司・青峰ペア、その審判をしている紫原にちらりと視線を投げかける。
あーあ、無理無理。あいつら皆すごい形相で試合してるもんマジすぎだろ。
試合を始めた真ちゃんと黄瀬の声を背後に、俺は水でも買っとくかと自販機の方へ歩いて行った。





熱中症起こされちゃ洒落にならないので買ってきた水をそれぞれの試合を終えた七人(ちなみに勝者は真ちゃんと赤司・青峰ペア。真ちゃんマジイケメン!)に渡した。俺マジで気が効く良い奴じゃね?って言ったら猫のぬいぐるみ(本日のラッキーアイテム)を抱えた真ちゃんに無言で殴られた痛ぇ。

公園の時計は午前十二時半を指している。

「あ、」

何が悪かったのかと問われれば、握り飯貪り食う火神マジリスwwwwとか騒ぎながら昼飯食ってたのが悪かったと言うのが一番正しいのかもしれない。
黒子が突然無言で駆け出した。一拍遅れて真ちゃんがその後を追う。

待って。
待って待って待って。


「危ないっ!」
「待て黒子っ!」
「真ちゃん駄目だ!!」


黒子と真ちゃん、俺の声が綺麗に重なって青い空に突き抜けていった。

テーピングで大切に守られた真ちゃんの指が黒子を掴もうとして、空を切る。追い付いた俺が真ちゃんを引きずり戻した。


黒子はもう間に合わない。


俺が真ちゃんの手を強く引いた瞬間、その鼻先を大型トラックが掠めていった。


その後の俺の記憶は、非常に断片的なものでしかない。
子供の泣き声、火神と青峰の絶叫、うろたえた黄瀬の涙声に救急車を呼ぶ赤司と紫原の声。真ちゃんの声にならない叫び。
見たくないのに見えてしまった黒子「だったもの」の肉片。

俺を嘲笑うぐんにゃりと歪んだ陽炎。

気が狂いそうな程にうるさい蝉の声と、握り締めた真ちゃんの手の温かさだけがやけに鮮明に俺の記憶の中に刻み込まれた。












ねっとりと纏わり付くような不快な暑さで目を覚ました。

「黒子……!」

いきなり押し寄せてきた記憶に、思わずバネ仕掛けの人形のように跳ね起きて携帯を引っつかんだ。バックライトが今日の日付と時刻を表示する。


八月十四日、午前十二時五分。


思わず携帯を取り落とした。

だって、昨日は八月十五日で、だから俺たちはストバスなんかやってたわけで、
だから黒子があんな目に遭ったわけで。

「夢……?」

携帯を拾って確かめても、部屋の壁掛け時計を見ても、リビングに行ってテレビを点けて確認しても今日は八月十四日だ。
肩から一気に力が抜けた。

何だ、夢か。

「良かった……」

夢であることの安堵と友人のそんな夢を見てしまったことに対する罪悪感がごちゃまぜになって猛烈な眠気になって襲ってきた。
明日朝会ったら真ちゃんにこの話をしよう。きっと「何を有り得ない夢を見ているのだよ」と眉を寄せて言ってくれるはずだ。

ねえそうでしょ真ちゃん?
こんなの「有り得ないこと」だよね?

なのに何で。
何で、

「青峰……!」

公園からの帰り道、上から突然降ってきた鉄柱が先頭を歩いていた青峰を貫いてコンクリに突き刺さる。
錯乱した黒子を火神が取り押さえ、真ちゃんが真っ青な顔で俺の手をきつく握りしめる。

陽炎がゆらゆらとゆらめく。
蝉の声がうるさい。












不快な暑さに目を覚ますと、携帯のバックライトは八月十四日の午前十二時五分を指していた。
黄瀬、紫原、赤司、火神の笑顔を思い浮かべて立てた膝に顔を埋めた。



その日の午後十二時半過ぎ、黄瀬が熱狂的なファンに襲われてナイフで刺された。





次の八月十四日は火神が死んだ。ペットボトルの水に毒物が混入されていたらしい。
その次は紫原だった。熱中症だった。
さらに続いて赤司が死んだ。包丁を振り回して走ってきた通り魔が原因だった。

さてここで皆さんに質問があります。
次の八月十四日に死ぬのは誰でしょうか?

消去法でいくなら――というかもうそれ以外には考えられない。
俺か真ちゃんかの、二択だ。
真ちゃんを死なせるわけにはいかない。うちの部活のエース様だ。何より、俺の唯一無二の大事な親友だ。


俺が守らなきゃ。


不審がる真ちゃんに朝からずっと張り付いていた。
午後十二時半になるまで何も起こらないのは分かってる。けどさ、ほら、気持ちだよ気持ち。何かしてないと落ち着かないんだよな。


そして運命の時間がやって来る。


リスのようにもきゅもきゅ握り飯を頬張る火神を皆が微笑ましく(赤司と真ちゃんは明らかに呆れてたけど)見つめる中、俺だけが一人道路の方をガン見していた。正直俺イタい人だわ。気にしないけど。

それでも声を上げたのは真ちゃんの方が早かった。

「あ、」

大きく見開かれた真ちゃんの翠緑の瞳が俺を通り越した、その向こうを見つめる。猫のぬいぐるみを抱きしめる手に力がこもる。

「高尾、」
「緑間!!」

突き飛ばすように赤司の方に押しやった真ちゃんの目は、その時確かに俺を見ていたように思う。
自分の身体を襲った衝撃に、深く考えることも出来なかったけれど。

「高尾!!」

喉から絞り出しているような真ちゃんの悲鳴が耳を打つ。ぎしぎしと油が切れたぜんまい人形のように軋む身体を捻って見上げれば、そこに見えたのは真ちゃんではなく、他のキセキの連中や火神でもなく、ましてや俺を轢いたはずのトラックでもなく。


―――ナンデダヨ


文句でも言いたげにゆらめく陽炎だった。
あっは、いい気味だね。
お前なんかに真ちゃんは渡さない。

「ざまあみろ」

そう吐き捨てたのを最後に、何もわからなくなった。












不快な暑さに包まれて目を覚ました。
蝉の声がうるさく鳴り響く中、枕元の時計が八月十四日の午前十二時五分を指し示す。

「また、駄目だったのだよ……」

緑間はそう呟いて、ぬいぐるみをぎゅっと抱きしめた。












【解説】
世界をループさせていたのは高尾ではなく、緑間でした。

実は一番最初の八月十五日に死んだのは高尾でした。それを受け入れられない緑間が世界をループさせ始めてしまいます。高尾が「一回目」だと思っていた八月十五日、つまり黒子が死んだ日は本当は二回目の八月十五日だったということです。

緑間は高尾を救うために世界をループさせたわけですが、高尾が助かるとキセキの仲間か火神が死ぬという事態に陥ってしまい、ループをやめるタイミングを見失ったまま、いわゆる暴走状態に入ってしまいました。彼は誰も失いたくなかっただけなんです。

七回目のループの日、高尾が緑間が死ぬと思った日ですが。
死ぬのは最初から高尾と決まっていました。
何でかといえばこのループ世界を作っているのが緑間だからです。世界の主を消すわけにはいかないので、緑間がどれ程アクションを起こしても世界は緑間だけは死なないように動き続けます。それが世界の真理を覆そうとした緑間に対して与えられた罰なのです。


ちなみに裏設定で、緑間の「本日の」ラッキーアイテムである猫のぬいぐるみには「和成」という名前がついています。緑間が世界をループしだした時につけた名前であり、このぬいぐるみがループする八月十五日世界の核になっています。



解説はこんなもんですかね?他にわからないところがありましたらコメントでどうぞー

わかりにくい話ですみません。実はこれの別エンド……というか続きみたいなのも考えてます。緑間救済エンド?そのうち多分あげます。

お付き合いありがとうございました!






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