「今日は鬼ごっこをするからね」

部員全員をテニスコートではなく第二グラウンドに集合させ、我等が魔王、幸村精市は綺麗な笑顔でそう告げた。

「……鬼ごっこ?」
「そう。ルールはシンプルにいこうね。鬼は一人で、逃げてる人にタッチしたら交代。最後に鬼だった人が負け。制限時間は一時間。あ、隠れ鬼じゃないからどこかに30秒以上隠れるのは反則だよ。」

思わず聞き返した真田に、幸村は立て板に水てばかりに流暢に本日の「トレーニング」について説明していく。

「ちなみに反則した奴、最後に鬼だった奴、途中で脱落した奴は一ヶ月間コート整備と部活終了後の10キロランニングのペナルティつきだから」

彼らは悟った。
自分たちには最初から逃げ場どころか、選択肢すら与えられていなかったことに。

「で、最初の鬼なんだけど」

どんよりとした空気を漂わせる部員にお構い無しに幸村は説明を続ける。

「今回は俺が言い出しっぺだし、俺が最初に鬼やるよ」

その瞬間、平部員はもちろんレギュラーの面々、果てには柳までもが表情を引き攣らせて幸村を凝視した。

幸村が、鬼……?

「精市に捕まった奴が再起不能になり、結果鬼の交代がないまま終盤までゲームが続く確率98%」
「さらに幸村のことだ。終了5秒前に別の奴に鬼を押し付けて自分は安全圏に入るぞ」

幸村の性格を嫌というほど思い知らされている柳と真田の言葉に、全員が生唾を飲み込んだ。
これは単純なゲームなどではない。自分たちの命が懸かった、最悪のサバイバルなのだ。

「10数えたら開始するからねー。10ー9ー8ー」

楽しげな幸村の声に全員が本能のまま真田のもとに身を寄せる。

「良いかお前ら、幸村に小手先の撹乱など効かん。下手なことは考えるな」
「7ー6ー5ー4ー」

正直真田も命の危機を感じていたが、せめて少しでもこいつらを守ってやろうと声を張り上げる。

「俺から言えることはただ一つだ」
「3ー2ー」

「1」


「突っ走れ!」


「イエッサー!!」

その瞬間、男子テニス部は真田を旗頭に一つになったのだった。


ちなみに一時間後に第二グラウンドに立っていたのは、終了寸前で赤也に鬼役を押し付けた幸村と生贄になった赤也、見事なコンビネーションで命からがら逃げきった真田・柳の四人だけだったそうな。







真田と柳は自分たちがやられたら男子テニス部に未来はないと思って共同戦線を張ったようです。







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