食後はパフェでしょ
結局"王子様"は却下されて"幸村様"に落ち着いた。ちょっと複雑そうだったけど、良いよと言ってくれたのは録なあだ名は出てこないと悟ったからだと思う。ごめんね、幸村様。
食後のデザートである抹茶パフェにスプーンを刺していたらガムのお兄さんが頂戴と言ったから一口あげた。もぐもぐと咀嚼していれば、何かに気付いた銀髪のお兄さんが私と斎の額を突っついてきた。同じく苺パフェを食べていた斎が物凄く嫌そうな顔してる。
「そいやぁ、"お姫"で誰じゃ」
「え?お姫はお姫だよ」
「うんうん」
「まあ、該当するのは一人しか思い当たらないけどね」
そう笑ってお姫を見る幸村様は楽しそうと云うか何と云うか。視線を向けられたお姫は複雑化そうな表情で小さく唸った。俯いてしまったからどんな顔をしているのか分からなくなったが、隣にいる幸村様が笑っているから、怒ってはいないと思う。照れている、と勝手に解釈しちゃうよ。
溶けかけたクリームを掬ってスプーンを揺らす。周りが何て言っても思っても、私達は好きに呼ばしてもらうつもりだ。生クリームを零さないうちに口に運ぶ。口の端に付いた黒蜜を拭って、マスターが差し出してくれたおしぼりを掴んだ。
「なんでお姫なんだよぃ」
「姫カットだから」
「え、それだけ?」
「それだけ」
あっけらかんと言って、斎はパフェを食べ続けている。話についていけないらしい皆が目を白黒させているのが面白い。マスターはどうなのか分からなかったけど。開いているのか分からないからね。どっちなんだろう。ちょっと気になるけど、見えてるんだから開いているんだろう。
「真田、照れてる」
「うるさい」
「あははっ」
「幸村」
「ごめん、ごめん。可愛いあだ名じゃないか」
「…む」
お姫の顔がちょっと赤い。ついでに耳も赤くなってる。幸村様は"可愛いあだ名"と言ったけど、お姫自体が可愛いと思うよ。
「大抵の女性は真田君を怖がりますからね。貴女方の様に懐くのは珍しいんです」
にっこりと微笑みながら当たり障りのない事を言った紳士なお兄さんだが、よく聞くと酷い事を言ってるよね。気付いていないのか、わざとなのか。悪気は無いんだろうな。
皆が頷くなか、苺を飲み込んだ斎が真顔で言ったことに皆の目が点になった。
「私、お姫好きだよ」