メアド、ゲットだぜ!
「楽しかったー!」
「すっきりしたけど、海水でベタベタだ」
「仕方ないよ。我慢我慢」
目一杯遊びに遊んだ私たちは、たっぷりと海水ん含んだ衣服を絞る。まだ絞れるだろうけど、私の力じゃこれが限界だから諦めるしかないな。ズボンとか絞りようがない。
服から手を離した私に、綺麗なお兄さんが笑いながら寄ってきて、代わりに絞ってくれた。さすが男の力だ。私とは全然違う。羨ましいったらありゃしない。
「ありがとーございまーす」
「気にすんなって。そろそろ帰るかー」
「んーそうですねぇ。斎の兄さんも待ってると思うんで」
「街まで戻ればバスがあるはずやっしー」
お兄さん達はどうやら街まで送ってくれるらしい。ありがたやありがたや。荷物を片手に斎を呼んだつもりなのに、返ってきたのは帽子のお兄さんの声。お前は斎じゃないだろ。別に良いけどさ、ちゃんと着いて来るなら。斎のことは、帽子のお兄さんに任せることにしよう。だいぶ打ち解けて仲良くなったみたいだし。ってか、あれだけ遊んどいて仲良くない方が可笑しいか。
手を貸してくれる綺麗なお兄さんに礼を言うのは忘れない。遊び疲れてふらふらしているのを見兼ねての行動に、スポーツマンは体力が違うなぁ、なんてぼんやり思った。ちょっと前まではこれだけ遊んでもまだ大丈夫だったのに可笑しいな。なんだ、年か。いやいやそんなことあってたまるか。私はまだ若いんだよ。これでも10代前半なんだよ。だから、これはただの運動不足で体力が無いだけ。それはそれでどうかと思うけども、年よりかはよっぽど良い。
そうぶつぶつと呟く私に、訝しげな視線を向けてくる綺麗なお兄さんに、何でもないと首を横に振るも、彼は変なものを見るようにしてくる。やめろ、そんな目で見るな。
「縁ー」
「なーにー」
「お兄が駅まで迎えに来るってさー」
「おk」
「斎の兄貴はぬぅばしとー?」
「カメラマンなんですよ」
ふぅん、と瞬く綺麗なお兄さんはあまりピンとこないようだ。
まあ、カメラマンって言われても分からないよね。写真を撮っているだけだから。でも、写真家はとても凄いと思う。たった一枚に全てを込めているのだ。色は勿論、音や匂い、その景色が内包する想いを全て体現している。それを作り出すカメラマンは、とても凄い人だと、私は思っている。それに、なろうと思ってなれる職業ではない。なのに、それを生業にしている斎のお兄さんはかっこいいと思っている。
「ほら、着いたさぁ」
「わーい。ありがとーございまーす」
「助かりましたー。楽しかったですし」
「わったーも同じやっしー」
にっこりと笑ってくれる帽子のお兄さんが、私と斎の頭を撫でる。大人しく撫でられていたら綺麗なお兄さんも便乗してきた。髪がぐっちゃぐちゃだけど気にしないぜ。
「明日も、時間があったら遊んでやるばぁよ」
「マジですか」
「おう」
「ほれ、縁。携帯貸せ、ケータイ」
「はーい」
催促するお兄さんとメルアド交換を済ませ、新たに増えた名前に顔が緩む。平古場凜に甲斐裕次郎。新しい友達だ。