真夏は駄目だろ

首を傾げる帽子のお兄さんが瞬いてから頬を掻いた。何も言わない私達を不思議に思っているのかもしれない。ごめんなさい、お兄さんが何を言っているのか分からないんです。日本語でお願いしたいんですけど。目を泳がす私達に、現状を把握したお兄さんが苦笑した。

「あー…お前ら迷子?何処に行きたいんだ?」
「迷子と言うよりは、」
「何処に行こうかなあって」
「決めてないんか?適当やさぁ」
「返す言葉もございません」
「行き当たりばったりな人生なもんで…」
「じゃあ、俺が案内してやるばぁよ」

にっこりと笑顔を向けてくれたお兄さんは、被った帽子を少し直して踵を返した。おいで、と手招かれてその後をついて行く。
制服を着て、ラケバを手にしているから部活少年なのだろう。悪い人には見えない。と云うかさ、ラケバってさ、テニスのだよね、絶対。最近になって知り合う人はテニスしている人ばっかりだ。確率的には割と低いと思うんだけど。なんか面白いよね、こういうのってさ。これは予感だけど、まだまだ始まったばかりだと思うんだよね。

「あ!お兄さん、お兄さん」
「ちゃーした?」
「私、藍沢縁ですー」
「神崎斎でーす」
「縁に斎な。ちゃんと覚えたぜ」

頑張って標準語で話そうとしてくれるお兄さんに何だか凄く申し訳なくなる。これはもう私達が"うちなーぐち"を覚えて出来るようにした方が良い気がしてきた。郷に入っては郷に従え、と云うだろう。取り敢えず、理解しようとする気持ちが大切だよね。あ、私今ちょっと良いこと言った。

「んで、何がしたいんばぁ?」
「えーっと…あ、アイス」
「そだね。アイス食べたいです!」
「よし、じゃあ行くか」
「「はーい」」



色々と案内してくれるお兄さんの隣でぼんやりと町並みを眺める。話は斎が聞いてくれるから私が聞かなくても問題は無い。

日焼け止めは必需品であろう酷い日差しではあるけれど、そんなものは考えるだけ無駄に思えてくる。なんかもうね、どうでもよくなるよ、これは。
意味は無いと思いながらも手で首元を仰いだ。私は割と汗をかかない方だけど、流石に今はそうもいかなくて、汗で前髪が張り付いて鬱陶しい。洋服も汗を吸って気持ち悪かったりする。夏の沖縄はいかんだろ、夏は。思わず漏れた呻き声を聞き取った帽子のお兄さんが笑いながら、一軒の店を指差して空いた方の手で私の背を軽く押した。

「ほら」
「はーい」

店内涼しいかよ。

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