イカ焼きが好き

騒がしい集団の中で、私は組んだ足に頬杖をついて息を吐いた。何故か知らない内にお兄さん達に懐かれてしまったようで、事あるごとに構ってくるのだ。嬉しい事なのだろうけど、素直に喜べないのはどうしてだろう。
そう思いながら、口元に運ばれてきたタコ焼きに仕方なく口を開く。程よく冷めたそれを咀嚼していれば、隣に座っていた美人なお兄さんが目を輝かせながらも眉を寄せ、嬉しそうに頬を染めた。
なにそれ可愛い。

「んんーっエクs」
「言わせないよ!」
「もごもご」
「危ない危ない。最早既に無いに等しいお兄さんの品位が更に失われるところだった」
「えげつないこと言いよるな」
「それが縁っすわ」

予想通りの美人なお兄さんの反応に咄嗟に口を押さえたけど、我ながらナイスだと思う。と云うか、今ちょっと酷いこと言われた気がする。別に気にしないけども、そういうのは相手の聞こえない所で言った方が良いよ。
未だお兄さんの口を押さえながらそう思っていたら、弱く手を叩かれて、視線を美人なお兄さんに戻す。離してくれと云うことだろうて、当てていた手を離してやった。

「スタシー」
「止めた意味ねぇわwww」
「いきなり酷いやん」
「そっくりそのままお返しします」
「やって、食べてくれるて思わへんかった…」
「お兄さんからだと思わなくて」
「ひどい」
「すみませんでした」

謝ったのに心が篭っていないとか言われた何この人面倒臭い。
不服そうに頬を膨らましながらタコ焼きに爪楊枝をぶっ刺したお兄さんにため息を吐く。どう対処しろと云うんだ。機嫌が宜しくない子の相手は光くらいしかしたこと無いからさっぱり分からない。
我関せず状態だった光を横目見れば、肩を竦めて首を傾げられてしまった。仕方ないから適当に相手をしろと云うことなんだろう。ああ、面倒臭い。

「お兄さん」
「なん?」
「タコ焼き下さい」
「どうぞ」
「…ちっ。あーん、てしてくれないんですか?」
「え?」
「ん?」
「ほんま?ええの?」

情けない表情のお兄さんに、答えの代わりに口を開ければ、途端、打って変わって嬉しそうに満面の笑みを浮かべる。思わず苦笑したけれど、気付いていないのか気にしていないのか、お兄さんは何も言わなかった。
それにしても、最初に見た"出来る人"のイメージが強かったお兄さんは何処に行ってしまったのやら。パツキンのお兄さんが信じられないものを見る目をするのも分からなくもない。私だって信じたくないさ。でも、目に見えているこれが真実なんだよ。

運ばれてくるタコ焼きを食べながらお兄さんを見れば、どうしたのかと爽やかな笑顔で首を傾げる。そうやっていればイケメンなのに、と切に思う。
何でも無いと首を振って、手持ち無沙汰にソフトクリームの容器を握る。プラスチックのそれは独特な音を立てて凹んでいった。

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