録音余裕でした(真顔)
「あー!!!姉ちゃんやんけ!!」
「やあ、マイキーもとい少年A」
「姉ちゃんもタコ焼き食べに行くん?」
「姉ちゃんはわざと忘れ物をした確信犯に財布を届けに来ただけだよ。アイス買って帰る」
「アイスか!ええなぁ」
「いいだろー」
校門の前でたむろしている奴らの中から弾丸の如く飛び出してきた少年の体当たりを食らって蹌踉ける。この、腹にくる感じが凄くデジャヴュだ。鳩尾じゃないだけマシか。
容赦無く絞めてくる少年は一体どれだけ力が有るんだろう。苦しくて息が詰まる。背中を叩いてみても、離してくれる気配は無さそうで、仕方ないからされるがまま。
半ば諦めかけていたけれど、美人なお兄さんが例の"毒手"とかなんとかで少年を引き離してくれた。万能だな、毒手って。
嗚呼でも、お兄さんなら本当に使えても可笑しくないと思う。綺麗なものには棘が有る、とか言うからそんな感じ。美人なお兄さんには毒がある、みたいなね。そんなお兄さんが居たら絶対に近寄らないようにするけど。
未だ締め付けられている感が拭えない腹周りを摩って息を吐く。にしても毎回あんな感じだったら身が持たない。常日頃、少年と一緒にいる部員達はそう思わないのだろうが、生憎と私は至って普通の体力と耐久力しかないので無理である。
ぼんやりと少年を見ていたからか、後ろの気配に気付けずあれよあれよと云う間に腹に腕を回されて持ち上げられてしまった。これもまたデジャヴュ。前回とは違って小脇に抱えられている状態では無いけれども、こう何回もほいほい抱き上げられるなんて誰が予想出来るか。私は出来ない。見上げてみれば、やっぱりあの時のでっかいお兄さんだった。ふんわりとした笑みを口元に浮かべ、小さく身体を揺する仕種が子供みたいだ。
「また会ったばい」
「そうですね」
「また財前ば捜しと?」
「んー、今回は財布を届けに来ました」
「そうっすわ千歳先輩。縁を降ろしたって下さい」
「おいこら確信犯。財布忘れてんなよ」
「縁は絶対に届けてくれる思って」
「可愛いこと言うな。うっかり許しそうになる」
「二人は仲良したい」
「「そうでもないっすわ」」
でっかいお兄さんの言葉に光と同時に思わず真面目に真顔で返してしまった。光の心外だ、ってありありと分かる表情にちょっと泣きそうになる。光はそんなに私が嫌いなのか、嫌いだろうよ。彼の性格がこうなったのは少なからず私の所為でもあるのだから。昔は素直で可愛い子だったのよ。今じゃこんなんだけどな。
「縁、縁」
「ん?なに、ひーちゃん」
「財布」
「ああ、ごめん」
「ええよ」
「やっぱり、仲良しばい」
「ま、嫌いやけど大嫌いやないし」
「そだね。好きの方が勝るかなぁ。ひーちゃん大好きだし」
「俺も…縁大好きやで」
「…っデレ頂きましたあああああああ!!!」
「うお!何叫んでんねん、縁ちゃん」
パツキンのお兄さんが驚いてラケバ落としてた。