持ち主が電話にでんわ

「ひーちゃん携帯鳴ってる」
「出といて」
「ういーっす…もしもし?」
『え!?縁ちゃん!?』
「はい私ですけど何か御用で?」
『財前おらんの?』
「リリと遊ぶのに忙しいみたいで無理です」
『は?何やよう分からんけど代わってくれん?』
「代わったら即切るんで」
「…だそうですけど」
『縁ちゃん話聞いて』

パツキンのお兄さんてばちょっと弱すぎやしないか。光の方が後輩だよね。これじゃあどっちが上なのか分かったもんじゃない。
あれか、パツキンのお兄さんはただのヘタレもしくは苦労人なのか。それなら仕方ない。光はドSだから相性が良いんだね。パツキンのお兄さんは恰好の標的なんだろうな。どんまい。私は絶対に巻き込まれたくない。

『なんや、今けったいなこと考えとらへん?』
「パツキンのお兄さんがひーちゃんの餌食になれば良いのにとか全然思ってないです全然」
『口に出した時点でアウトや。八ッ橋に包め』
「オブラートには包んだつもりですけど」
『うっす!めっちゃ薄い』
「包装紙無しがお好みでしたかそうですか。ひーちゃんに虐められて下さい」
『縁ちゃんなんて嫌いやー!!』
「それはどうも有り難うございましたー」

耳元で叫ばれてイラついたから電源ボタンを押した。
不思議そうにこっちを見る光に首を振って、携帯をベッドに放り投げる。何の用か分からなかったけど、きっと大したことでは無いのだろうと頷いて欠伸を一つ。
少し放置しておけば、落ち着いた頃にまた電話が来るんじゃないだろうか。どうでも良い話だったら明日にでも直接言うと思うし。

あーあ、それにしても暇だ。夏の課題は撃破済み、外に遊びに行くのは光の部活が休みになる二日後。やることなさすぎて干物になる。
だらし無く床に転がって丸くなったら、光の膝の上から降りたリリが一生懸命に擦り寄ってきた。その仕種が可愛くて可愛くて口元が緩む。
うちの子まじ可愛い。

そのまま暫くごろごろしてたら頭が痛くなったから、すぐ近くに座ってた光の太ももを借りた。筋肉が付いているから固いけど、無いよりはマシって感じ。言ったら叩き落とされるから口が裂けても言えないけど。
口を押さえて光を盗み見ていたらまた携帯が鳴って、今度は光が手を伸ばしたから出るのかと思いきや、私の額の上で手を離した。出ろ、と云うことか。

「うう、いたい」
『あれ?縁ちゃんやん』
「今度は美人なお兄さんでしたか」
『謙也が電話しとうないていじけとるんや』
「十中八九、私の所為です」
『そうやと思った』
「なんてこった」
『あんな、財前に代わって欲しいんやけど…』
「あ、聞こえてますんで、どうぞ」
『何で、て聞きたいとこやけど敢えて聞かへんで』
「私が膝枕してもらってまーす」
『言わんでええて言うたのに。ってか逆やろ普通』
「言われてないですけど」

なんだこの人疲れる。
第一印象は出来る美人なお兄さんだったのに、今では見る影もない。ちょっと扱いに困る人だよ。面倒臭い。
ひーちゃんも同じ事を思っていたのか、手にしていた雑誌にちょっと皺が寄ってた。きっと力を入れすぎたんだろう。

『本題やけど、明日の部活終了後にタコ焼き食いに行こう思てん』
「金ちゃんが駄々こねたんすか」
『そう言うことや』
「はぁ…しゃーないっすわ」
『良かったら縁ちゃんも…』
「やだ」
『肝心な部分が言えてへんのやけど』
「さようならっ」

何か言われる前に切ってやった。


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