良い子は人の背中を踏んではだめ
あの後、帰ろうとする私に駄々を捏ねた少年を、美人なお兄さんが"毒手"とかなんとかで大人しくさせてたんだけどさ、何よ"毒手"て。それなんて厨二病なのお兄さん。あんな綺麗なくせして実は、みたいなこと考えてたら光にチョップされた。
少年がいなくなった後に、冗談やで、と苦笑する美人なお兄さんは少し疲れているように見えたけど、大変だなあ、と人事みたく思う。実際に人事なんだけど。
ああでもしないとゴンタクレ少年は言うことを聞かないらしい。にしても、本当に信じてるなんて彼は本気でピュアだったみたい。
「てか、四天宝寺と云い氷帝と云いテニス部は顔なの?顔で決めてんの?」
「んなわけあるか」
「いたい!!ちょ、ひーちゃんそこ背骨!ぐりぐりしないで!」
「………」
「無言で力強くするのは止めてくれたまえ」
そして早く足を退けてくれ。地味に痛いんだよ、そこ骨だから。
ベッドの上で光に踏まれたままの私が何をしたと言うんだ。ちゃんと掃除もしたし、お手伝いだってしたし、ちょっと微睡んでただけなのにこの仕打ち。少し酷くないですかね。
光の声に起きたリリが、抱き上げろと催促するかのように鳴く。甘えた声と上目遣いでおねだりするのはリリの常套手段。長い尻尾を、ゆらり揺らして光のズボンを噛んで引いた。
「制服に毛が付くから程々にね」
「縁が何とかするやろ」
「他力本願も大概にしろよ」
「そう言っといてやるもんな、縁?」
「……くっ」
その勝ち誇った顔をするな。顔面に右ストレートを決めたくなる。
リリを抱いて、その背を撫でる光に追いやられてベッドから落ろされた。私には床がお似合い、と云うことか。強ち間違ってはいないな。
放られたテニスバッグを片付けようと立ち上がり、踏まれた背中を摩った。洗濯する物としない物とを別けて、する方を持ちながら溜め息を吐く。
私は一体何をやってるんだか。
「ひーちゃん、そのまま寝ないでよー。ってかシャワー浴びてこい」
「んー」
「スルーしないで。ちょっと悲しい」
「ん」
「リリも連れてって良いから。ついでに洗ったげて」
「よし、シャワー行くで」
「こいつww私<リリかよwww」
ベッドに寝転がり、腹の上にリリを乗せて喉元を擽る様に撫でて遊んでいた光は非常に可愛いけど、話を聞いてくれないから可愛くない。ぶらり、とリリを持ち上げて鼻先を寄せている彼を若干恨めしく横目見ながら、洗濯物を握りしめた。
「リリは私のなのに…。ひーちゃんなんか引っ掻かれてしまえ」
「なんてこと言うん」
「…うう」
「縁、なにしてん」
「写メ。ベストショット頂き」
「消せ」
「お義姉さぁぁぁぁん!!」
「待たんかい、この!」
捕まった。