初めての(怒られた)おつかい
勝手知ったるなんとやら。取りあえず光の家に着いてすぐに光の部屋にリリを放す。きっと、此処にいる間はリリはこの部屋から出ないだろうから荷物も隅に置いた。
手土産を持ってリビングへ向かう。その間、光は放置だけど何時もの事だから特に気にした様子も無く部屋に戻るだろう。
「お久しぶりですー」
「縁ちゃん、いらっしゃい!暑かったでしょ?」
「東京も似たようなもんだよー。はい、お土産」
「いつもおおきに。ゆっくりして行きなさいね」
「お世話になります。あ、お義姉さんこんにちはー」
「久しぶり、元気やった?あ、今回は噂のリリちゃんもいるんでしょ?」
「ひーちゃんの部屋にいるから好きに構ってやって下さいー」
お義姉さんはいつ見ても美人さんだ。ふわり、と笑うと花が飛んでるような錯覚を起こしそうになる。美人は3日で飽きる、って言うけどさ、お義姉さんだったら絶対飽きないと思う。
そんな彼女の息子くん、要するに光の甥っ子君は寝ているのか、姿が見えない。起きてると、お姉ちゃんお姉ちゃんて足元をうろちょろしてるんだけど。いやあ、それが可愛いのなんの。お義姉さんの子供なだけはあるね。
「ねえ縁ちゃん。来て早々に悪いんだけど、」
「おつかいですかー?」
「ええ。光も連れて行って良いから」
「あいさー。そのつもりでーす」
メモとお金を受け取り光の部屋に戻る。材料からしてお好み焼きかな、なんて思いながらドアを開けたのは良いんだけど、予想外の光景に一時停止してしまった。
なにそれ可愛い。写メ余裕ですけど、良いよね、駄目って言われても撮るけど。
ゆっくりと近付いて、ベッドのすぐ傍に座り込んでシャッターボタンを押した。これは待ち受け決定。我ながらナイスショットすぎる。
シャッター音に、光の眉が寄せられたけど、髪を梳く様に頭を撫でてやったら頬を緩めて深い寝息を立てた。ベッドの上で丸くなって、リリを腕の中にすっぽり収めながら俯せに近い状態で顔を寄せ合って寝ている。時折、ぴくりと動くリリの耳が頬に当たって擽ったいのか、むずがるみたいな声を漏らす光は普段より子供っぽく見えるから余計に可愛い。
女として負けた気分だぜ、まったく。
苦笑して立ち上がり、音を立てないようにドアを閉めた。
「お疲れだもんね。リリ、ひーちゃんを宜しくね」
にゃあぅ、と柔らかい声が聞こえた気がして、微笑みながら階段を下りた。
行ってきます、とまるで自宅みたいに家を出て、勘を頼りにスーパーへ向かう。いや、冗談です。いくら私でも勘で辿り着ける筈ないから。場所はちゃんと知ってるよ。何回も行ってるからばっちりなんだ。
さ、早く買って帰ろう。
「何で起こさへんの」
「え、だって…」
「何で?いつもやったら起こすやん」
「部活で疲れてるとおもっ、」
「は?」
「ごめんなさい」
一人でおつかい済まして帰ってきたら、玄関で待ち構えてた光に怒られた。おつかいして怒られたのは初めてだ。笑ってる余裕なんて無いけど。