梅雨がどっか行った
「ゲーセン行こまい」
「よしきた」
そんな会話をした数十分前、只今午前11時。
着替えて準備して歩いていけば、約束の時間には充分に間に合うだろう。それに、あいつとの約束の場合、10分くらい遅れて行くのが丁度だったりしたりする。
ポケットに財布と携帯を捩込んで、部屋を出ようとしたらサスペンダーがドアノブに引っ掛かって変な声が出た。朝からついてないな、まったく。玄関にあった適当なショートブーツを履いて、ぎらぎらと照り付ける太陽の下にいざ出陣。6月だと云うのに、梅雨の季節だと云うのに、元気に仕事している太陽を憎く思いながら駅までのんびりと歩く。
吹く風に少しの湿気と温かさが混じっていて、何とも言えない。夏ももう直ぐと云うことか。つい最近に進級したと云うのにもう夏だなんて、時間の流れとは早いものだ。
それだけ楽しくもあったのだろうけれど。まあ、何やかんやであれだけ濃いメンツと会話を交わしたりしたのだからインパクトも強い。が、後にも先にもこれっきりだ。夏休みに入って会わなくなって、私達の事はきれいさっぱり忘れてくれるだろう事を祈ろう。
見ている分にはとても楽しいんだけど、いざ自分が巻き込まれるとなると疲れる。やっぱり、娯楽感覚で眺めているのが一番だ。
なんて考えていたらいつの間にか駅に着いていた。びっくり。
「縁ー!」
「…斎がもう来てる。珍しいことも有るんだね」
「なにおー…ってまあ、今来たんだけどネ☆」
「ですよねーwwww」
私の感動を返せ。と言っても別に返してもらうほど感動していないんだけど。
寄ってきた斎とハイタッチを交わして歩き出す。休日だからか、街行く人は心なしか多く、学生や子連ればかり。時たまお年寄りも見えるが、やっぱり学生の比率が高い。
まあそんな事よりもリア充ばくはつしろ。
隣の斎も同じ事を思っていたのか、何とも形容し難い表情になっている。別にリア充が羨ましいんじゃないんだけどね、一回は言ってみたかっただけなんだ。
だって、私達の年齢で付き合うとかって、ごっこ遊びの延長でしかに見えない。恋する女の子がいけないとか、付き合うのが悪いとか、恋自体を否定しているんじゃなくて、私自身が恋愛に興味も意味も見出だせないだけ。だって、何するの、って話じゃん。誰かに恋に落ちて好きになるのは本人の自由だとしたら、それに対する意見も自由であると仮定して、私は思う。今しなくても、いつかきっと誰かしらと恋をするだろう。それが、今必要なのかそうでないのか、私はその後者だと。
誰かに豪語するのでも、分かってもらいたいのでもないけれど、私はそう思っている。
なんて、私の意見なんてどうでも良いか。そんな事よりも折角の休みを満喫しようじゃないか、ねえ悪友。その意味を篭めて視線を投げかければ、斎は直ぐに笑い返してきた。
「今日は何しよっかー」
「とりま音ゲー確定っしょ」
「あ、じゃあさ、珍しくクレーンやんない?」
「良いじゃん、おkおk」
「可愛いやつ有ると良いねー」
「フィギュア欲しいー」
「部屋に置く場所あんの?」
なんて会話をしながら、鼻歌混じりにスキップで前を歩く斎を止めて、私は額に一発噛ましてやった。恥ずかしいから少し黙れ、と。