03
すっかり飛んだ眠気の後に来るのは空腹で、洗面所を出る頃にはこれでもかと言うくらいに食事を欲していた。部屋に漂う匂いも助長させる要因だろう。胃をくすぐる料理ばかりを作っているであろう彼を恨めしく思いながら戻ったそこには、予想通りテーブルから溢れんばかりの品々が並んでいた。思わず乾いた笑みが漏れる。座って待っていろと言う彼の手にはまだターナーが握られ、反対の手の中には鍋が音を立てていた。何が彼をそこまで駆り立てるのだろうか。確実に後日へ回されるであろう中、未だ表面を煮立たせるアヒージョからエビをひとつ失敬してワインを取り出す。
「サングリアにしよ!」
「はいはい」
鼻歌でも始めそうな彼越しに覗き込んだ鍋の中では大ぶりの鶏がトマト色に染まっていた。太らせるつもりかとグラスを取り出す背後で聞いた短い悲鳴に何事かと振り返る。眉を下げるのを横目見て、おはようのちゅーを忘れたと慌てる頭を小突いた。