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もう終わってまう、と情けない声を出す彼を振り返ったのは、ここへ訪れてから一週間ほどのことだった。休みはまだあるようだが、そろそろトマトの様子が気になるということと、ロマーノを構いたいということだろう。もしかしたら山向こうの隣人たちと何かしら約束をしているのかもしれないし、珍しくこちら側の隣人と会うのかもしれない。
苦手そうではあるが、嫌ってはいないことを知っている。
引き留めることはできなかった。この、あまりにも穏やかで幸せな時間を失くすと思うと惜しくもあったが、彼を縛りたいわけではない。
ソファに沈む頭を撫でてやる。甘える仕草は昔と何一つ変わってはいない。
「好きに来たらええやん」
「……今度はお前がこっち来たって」
甘えるべく伸ばされた腕に大人しく掴まり、腹部に埋められた顔に苦笑して髪を梳く。
折角の休日をいつもの街で過ごすのは良いのだろうか、と思うものの彼はあまり気にしなさそうだ。
「考えとくわ」
「絶対やで」