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絵に描いた様な、スペインと言えばここと称されることも少なくはないのが特徴の街並みは、行きかう人々で賑やかで華やいでいる。その喧噪から離れた裏路地にある静かなテラス席でコーヒーに口を付けた。
「明日はちょい遠出しよな〜」
「なら今日ははよ寝んと」
「映画観ぃひん?」
「話聞いとる?」
くふくふと笑って、彼がボカディージョにかぶりつく。定番のそれからあふれる生ハムを器用におさめながら、手元の端末を覗き込んでいる。便利な世の中になったものだと、一緒に見ていた身体を戻してトルティージャにフォークを入れた。量のあったそれをあっさりと食べ終えたらしい彼はまだ物足りないのか、口を開けて待つので放り込んでやる。あれやこれやと言うのを聞きながら、早めに家に帰れることを祈るしかなかった。