雨音につつまれて

細やかな音に目を覚ます。肌寒い気温の中、暖かで心地良い掛け布から顔を出して外を見れば、重たい雲が我が物顔で居座っていた。零れる細いそれらが地面を、草木を、穏やかな水面を叩いている。静かな空間に響くそれは、酷く落ち着いた。
柔らかく受け止める枕に今一度頭を預けて布を僅かに捲る。惜しげもなく晒された肩は規則正しく上下し、精悍で憂いを持つ面差しを鳶色の癖毛の奥に潜めたその人を見た。穏やかな寝息から意識はかなり深い所へ落ちていることを知る。ゆったりと腰に回った腕をそのままに前髪を撫でた。厚い灰の雲間から差し込む光が室内を淡く照らしている。ぼんやりと視界に入れながら天井と隣を行き来していた目を外へ向けた。窓をしとどに濡らす滴は、いっと心地良さすら抱かせ耳に届く。吐き出した長い息が部屋に消えていった。
空いた隙間に滑り込んだ空気がそうしたのか、身体に回っていた腕に引き寄せられて均整のとれた体躯の下に仕舞い込まれる。しなやかで一種優美さを持つそれは意外にも重く厚い。文句のひとつでもと口を開きかけたが、素肌から伝わる鼓動に毒気を抜かれそのまま閉じることになった。いくら部屋が肌寒いとしても掛け布の中でふたり、隙間なくいればじっとりと汗ばんでくる。不快とまではいかないものの、手離しに良いとは言えない。とは云えこの意識の無い者を、ましてやこの体格差で退かせることは出来ず、諦めるしか選択肢は残っていないのだ。
鳶色の癖毛が胸元を擽る。きっと、名前を呼び背を撫でさえすれば起きるだろう。豊かな睫毛の向こうに隠された穏やかな新緑の宝石をそうっと開け、花が綻ぶように微笑む。ただひたすらに好意を持って細められ頬に影を落とす睫毛が震える様は、目元のほくろと相俟って壮絶な色香を放つ。覇気のない、眠たげな雰囲気の中に垣間見えるそれに惹きつけられるしかない。けれどその成りも潜め、今はただ幼さの見える顔で眠っている。下敷きにされていない方の手で柔らかな髪を撫で指を通す。少し首を傾げれば、頬に鳶色が触れた。

「ん…」
「おはよ、お寝坊さん」
「休みやから…ええの」

起きたかと思えばむずがる様にすり寄り今以上に抱き込んでくる。痛みさえ感じる抱擁を甘んじて受け入れていれば、顔を上げた緑の宝石と視線が交わった。気だるげな、まだ眠気の残るそれを瞬きゆったり細める。思った通り軽く唇を塞がれた。仔猫がじゃれるときの戯れにも似た仕草で下唇を食まれ、開けろと催促する舌に隙間をなぞられる。素直に招けば戸惑い無く滑り込んできた厚いそれが余すことなく咥内を撫でていく。舌先だけのそれはいつしか絡みつくものに変わり、気付けば唇全てが食べられていた。こうなると長い。横目で外を見てそのまま閉じる。
雨は、まだやまない。




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