夜の静寂に波の音が溶けていく。ひとつ、ふたつ、またひとつ。寄せては返すその分だけ、暗くのっぺりとした宵闇が攫っていった。月の光だけが頼りの中で、薄ら揺れる朱がぼんやりと浮かび上がる。金の装飾が施されたカンデラの内側、硝子を舐めるように照らしながら小さな火が躍った。金というのは比較的熱に弱いものと知っていてこれを作ったのか、それとも知らずにいたのか、どちらにせよ飾りとしてあつらえたであろうこれよりも松明の方がよっぽど優秀だろう。心許ないこれでも無いよりましと思う外ない。目的を思えばあと数刻も経たず用無しになるものの、それでも今この瞬間では大いに必要だった。
一際強い風が吹き抜けていく。致し方ないと彼の棚から失敬してきた上等な上掛けがあるが、日の沈む時間が早くなってきたこの時期はやはり冷えた。呼吸と共に零れる息は白く線を引いて消えて、末端から失われていく体温の感覚が分かる。遥か遠くから運ばれてくる鋭い風に容赦などなかった。囲われていなければ、手にしている小さな火など一瞬でかき消されていただろうことを思うとその点はカンデラを褒めるべきか。しかし、この大袈裟な金の装飾はどうかと思う。
陽が落ちる前に帰港する予定だと、少し前に出て行った彼は言っていた。航海に絶対は無いことくらい分かっているが、約束の時刻を過ぎて尚、姿が見えないのは不安になる。家で待つばかりでは落ち着かず、それなら迎えてしまえという行動は女一人がするには褒められたことではない。しかし、そうと知りつつもこうして彼の船の定位置で待ち続けていた。潮風が髪に、肌に纏わりついては通り過ぎて行く。手をかけもしない頭はきっと鳥の巣じみていることだろうが構いはしなかった。空と海とが交わる先を見つめる方が何よりも大事だからだ。
空が白み始める。宵闇は追いやられ、暁が一面を支配していく。白く眩い煌めきが確実に勢いを増していた。カンデラの中の火は役目を終え、いつの間にかしっかりと黙っている。朝焼けの合間を探ってみても、彼の船はまだその影すら見せない。凪いだ海面が昇りゆく太陽を反射して、色を濃く鋭いものにしていくばかりだ。眩しすぎる空を見ていられなくなりそっと目を閉じたが、なおも強い光は薄い瞼の奥まで照らしてくる。熱く痛いのも、心臓が締め付けられるのも全て、射し込む朝日のせいだ。
静謐に包まれた港が仕事の顔を見せる前に帰路に着く。朝早く、ともすれば既に出港していた可能性もあるほどに船乗りたちは誰よりも先に動き始める。波の音に混ざって男たちの声が聞こえ、次第に大きく賑やかなものへと変わった。けれど、その中に彼のものは無い。
いつまでも冷えた身体では居られず、人の目から逃れるようにして自宅よりも近い彼の別邸へと向かう。今回は別の場所に着いて邸に戻ってきているかもしれない、などと淡い期待を胸に抱きながら着いたそこに人の気配がするはずも無く。ひっそりとした静けさを保っていた。馬鹿みたいに期待をするものではない。潮を含み僅かに重さの増した上掛けを落とす。足元にたぐまるそれをしばらく見下ろし、けれどその上等な布をそのままにしておくことは出来ずに溜め息を吐きながら拾い上げた。誰も使うことのない邸の床は汚れを知らず、いかにここの主が不在かを示すので何とも言えない気持ちになる。もう一度溜め息を零してから洗濯場へと足を向けた。
桶に水を張り、上掛けを浸しては丁寧に濯いだ。今日の天気であれば夜までには乾くだろう。肌を刺すような冷たさを保つ水の中で絡んでは解けるのを繰り返す布を引き上げ、そっと水気を落としていく。自宅のものであれば遠慮することなくきつく絞るものの、今手にしているものはおいそれと力技は使えない。考えつく限りの手を掛け水分を取り除いた上掛けを日当たりの良い中庭に干す。暖かな陽射しと柔らかな風に任せれば、上手い具合に仕上げてくれるだろう。一仕事終え、一旦自宅へ帰る気でいたが訪れる眠気には抗えずこのまま仮眠をとることに決めた。何度も使用している邸は他人の家ながらも勝手を知り尽くしている。窓の締め切られた主寝室は彼の持ち帰ったもので溢れ、少々埃が目立つ。持ち出したカンデラもまた、この金や銀、宝石などの山の中に紛れていたものなので高価なものだと想像に容易い。以前であれば触れるのを躊躇する品だが、こうもがらくた然とした扱いをされていると手に取りやすかったのだ。さして興味の湧かない品々を尻目に寝具に潜り込む。彼がいないだけでこんなにも広いことに気付きたくはなかった。
この邸にいる間は彼に合わせているからだろうか、随分と深く眠り込んでいたみたいだ。閉め切られた部屋は元より周りを見回すことが困難であるため、枕元の明かりを灯す。小さな火が照らした辺りは未だひとりきりでしかなかった。直ぐに隣に潜り込んでくる彼の髪の一本たりとも残ってはいない。綺麗な寝具で休んで欲しいと整えたのに身に覚えがある。残り香も勿論、跡形も無く消えてしまっていた。自然と溜め息が漏れるのを止めることは出来ない。ひとつ吐いて寝台を降りて中庭へ向かう。干されていた上掛けはきちんと乾いていたが、夜風に当たり冷たくなっていた。それでも柔らかく、纏えば暖かなそれは吸い付くような触り心地だ。上等が故に普通のものよりも重みのあるそれを抱え、体温を奪う夜の空気から逃げて戻った室内は風が無い分ほのかに暖かい。人の気配のしない廊下を進み台所を覗く。常に人がいることを想定していないので長期保存の出来る食料しかなく、それもほんの僅かだ。明らかに物が入っていない棚は、彼とここで過ごす際には色々と買い込み詰めていたものだが、今は寂しいものである。
少しの干し肉とパン、それから持ち込んでいたいくらかの酒を温め食事を終える。灯していた火をひとつだけ残して後は消した。家を空けている間に火事にでもなっては洒落にならない。昨日のカンデラに入れる分だけあればそれで良かった。玄関で上掛けを羽織り戸を開ける。港の冷めたさを思うともう少し着込むべきではあるが、生憎と持ち合わせが無く、洗い立てのそれだけという昨晩と何ら変わり映えのないものになった。港までの道のりは慣れたもので、何もない静まり返った道を淀みなく進む。昨日と同じ場所、波の音だけが同じように繰り返し届いては引いていくのを聞きながら上掛けを手繰り寄せた。規則正しい潮騒は、普段であれば心地良く眠気を誘うものだが、今はただただ恐ろしい。一歩間違えれば彼を連れて行ってしまうものである。海の神がいるというのなら、どうか彼を無事に帰して欲しいと切に祈る。目を上げた先、遠い水平線は全てを飲み込むように、暗く静かにそこにいた。
彼の言った予定日から既に14日が過ぎていた。昼間は家のことを片付け、夜は港へ行くことを繰り返していれば流石に疲れが出てきたと思う。顔色が良くないという母に言葉に自覚は大いにある。禄に食事も睡眠も摂れていないのだから、然るべきの状態のはずだ。それでもなお行いを改めないのだから執着が凄いな、と我ながら笑ってしまう。その力のない笑みを見かねてか、休むようきつく言った母に折れて大人しく微睡んでいたが、やはり気になってしまい邸へ赴くことにした。眠るのであればあちらでも特に問題は無い。もしかしたらかえっているかもしれないという淡い期待もまだ持っていた。もしそうであれば何食わぬ顔でおかえりと言えば良い。支度をする姿を見た母に、しばらくは戻らなくても良いと言われてしまったので軽く荷物を纏めて家を出た。今日こそは、そんな考えは人気の無い邸の前で脆くも崩されるのだが。
優しく体を受け止める寝台で、柔らかな掛け布に包まれながら見るのは、同じように優しく甘い彼の夢だ。名前を呼ばれ、頬を撫でられる。最後に触れたのはいつだったか、確かふた月ほど、という所で意識が浮上した。離れがたい甘美な夢もあっさりと消え、ぼんやりとした視界には換気のため開けた窓からの月明かりが差し込んでいた。すっかり眠り込んでいたらしく、辺りを見回してみても彼の姿はない。隣には冷たい布の感触しかなかった。期待はしていなかったが、寂しいものである。ひとりで使うには広すぎる寝台にもすっかり慣れてしまい、隣を空けておく癖もまた、馴染んでいた。ぼんやりとした思考のまま横になっていると今までの疲れの所為かまた眠ってしまいそうになり、起きなければと寝返りを打つ。そうして丸くなってしまったが為に身体は寝台に沈んだまま、意識もまた霞み始める。零れた欠伸が引鉄か、時間を立てずにもう一度意識を手離した。
そうしてまた夢を見る。少しかさついた手が頭を撫で、髪を掬った長い指がそのまま頬をくすぐる。目元をなぞる親指の感触が嫌に現実的で泣きそうになってしまう。そのまま僅かに指先へ力を入れるのは彼の癖だ。未だにこの目を欲していると言われている気がして、可笑しいかな安心した。戯れに唇を撫でていた手が遠のき、それから代わりに唇が降ってくる。確かめる様にして一度、少しだけ長いそれは徐々に思考を溶かしていった。意識を引こうとしてか、軽く歯を立てられ彼を見れば、輝く瞳が真っ直ぐこちらを見ている。海と若葉とを混ぜて煮詰め、蜂蜜を溶かし込んだかのような、一流の職人が手掛けた一級品を思わせる眼は甘くとろける色で揺らめいた。透き通るようでいて実のところは深く美しいそれは愛し気に見下ろしていると思えた。夢の中での解釈は自由だ。自分がそうとすればそうなるのであり、都合の良いものでも咎める者も否定する者もいない、優しく撫でられ、何度も唇が重なることの何と甘美で幸せなことか。しばらくは目覚めたくはない、と深く身を委ねようとしたところで鳥の囀りで目を開けてしまった。勿体ない、と浮上した思考で肩を落とすのは許されたい。どうしてこうも良い場面で意識を覚醒してしまうのか。僅かに部屋が明るく鳥の声が聞こえるのは窓を開けて寝ていたからか、と昨日の自分に効後悔しつつ起き上がろうとして、目に飛び込んできた太陽とは違う明るさに首を傾げた。疑問に思うよりもまずは寝台から出ることを優先し、上半身を起こそうとした寸前に背後にある気配に固まる。それから、腹部に回された腕に弾かれるようにして振り返った。
見下ろした柔らかな癖毛の奥、豊かな睫毛に縁取られた鮮やかな瞳は薄い瞼の裏に隠れている。つまるところ、安心しきった様子で彼が穏やかに眠っていたのだ。言葉にならず、驚きにただ口を震わせる。惜しげも無く見せられた肌はまた少し日に焼けた気がした。今は解かれた神でよく見れないが、顔つきもまた精悍なものに変わったと思う。しばらくの間じっと見下ろして、張り詰めていた糸の切れる感覚に力が抜けてそのまま倒れ込んだ。向き合う体勢になれば美しい顔が目と鼻の先にくるので、穏やかな寝顔に安堵がこみ上げ泣きそうになってしまう。か細く吐いた息は震えていた。伝わる体温が心地よく、けれどもっと強く抱きしめてもらえたら、と僅かに身を寄せた。海の気配が強くなる。
「ポルトガル」
滅多に呼ぶことのない名前は思いのほか小さく、密やかに空気へと溶けていく。そう思っていた矢先、溶け逝く前に拾い上げられた言葉に静かな声が返ってきた。起きたばかりの眠りの淵をさ迷うぼんやりとしたものではなく、明確なそれに驚き瞬けば、艶やかな緑がこちらを捉えた。あの、高価な石で造られたような瞳が、苛烈な輝きを灯して見詰めてくる。射貫かれて息が詰まり、音も無く喘ぐ。身体に回った腕の力が一層強くなった。もう一度名前を呼ぼうとして開いた唇は、噛みつく勢いで重ねられた彼の咥内に言葉も音も全て飲み込まれてしまう。衝撃と温もりと、待ち望んでいた感覚に思考が明滅して何も出来なくなる。ままならない呼吸に現実へと引き戻され喘いだが、逃がさないとでも言わんばかりに圧し掛かられればされるがままでしかいられなかった。
咥内を好き勝手している厚いそれに歯を立てようにも力が入らず掠めるだけに終わる。その間も余すところなく撫で擦られ肌が粟立つ思いだ。とうとう力の抜けた身体になってようやく気付いたのか、唇を離した彼が少しだけ身体を浮かせる。息も絶え絶えに、けれどやっと取り込んだ空気に咳込んだ。引き攣るような呼吸のまま見上げた先、真夏の太陽を思わせる強く獰猛な輝きが未だこちらを見下ろしている。今にも牙を剥かれたとしても可笑しくない空気に、背筋を冷たいものが滑る感覚がした。いつの間にか掴まれていた手首には、きっと痕が残るだろう。
「何でここにおったん?」
「駄目だったなら、謝る」
「ちゃうよぉ。嬉しかったんや。疲れて帰ってきたらお前がおってくれとうんやもん」
幻か確認した。柔らかく甘い声音で彼は言った。まるで猫が甘えるような仕草でもって擦り寄っては艶めいた息を零している。長い航海の最中、どこか寄った港で誰にも世話になっていないのか、布越しに伝わる張り詰めたそれに思わず目を泳がせてしまった。疲れからくる昂ぶりも相俟って、漏れる吐息は熱く、ぎらつく視線もまた変わることなく注がれ続けている。
寝台の軋む音がやけに大きく聞こえるせいで否が応でもこの先を想像させた。固く目を閉じたことを何と受け取ったのか、首筋へと唇を滑らせてから緩く歯を立ててくる。明日は起き上がることもままならないかもしれない、と思いながら目の前のその人に腕を回した。
「帰って来ないと思った」
「堪忍なぁ。嵐に遭ってもうて…戻ってからは仕事で忙しゅうて」
嵐で半壊の船では港に寄せれず、修理へ直行だったわけだ。真新しい掛け布に包まりながら彼の言葉に耳を傾ける。気怠い身体は指一本たりとも動かすことが億劫で、痛む節々にともすれば呻き声が零れそうだ。色々なもので汚れた寝具は全て変えられ、酷い有り様だった身なりも綺麗に整えられている。口にするのも憚られるあれそれに顔から火が出そうではあるものの、満足気に抱き着いてくる彼を見ると怒りも萎んでいった。寂しくて会いたくて、触れてほしかったのはこちらも思っていたので、自分を棚に上げて責めることが出来ないとも言う。まだ足りないと言うのを宥め、彼がきちんとした眠りに落ちるまでゆったりと言葉を重ねる。この時間が好きだった。妙な意地でこの空気を壊したくはない。言いたい気持ちを飲み込み、ただただ重なった体温に身を委ねて表情を緩める。直接触れる体温は徐々に思考を溶かしていった。応えてより強く抱きしめられれば、心が満ちて行くようだった。好きだと、改めて感じる。
「丁度ええと思ったんも事実なんよ」
「何が、丁度なの?」
大きくはない声に顔を上げる。ずっとこちらを見ていたのだろうか、間髪入れず視線が交わった。鼻先で前髪をかき分け、辿り着いた額に口付けた彼が頷く。どういうことか予想だ出来ず、言葉の続きを待つしかなかった。
「国と人とは生きる時間が違う」
「そうだね……貴方は半永久的に死なない」
「話が早くて助かるよぅ」
「だけど、何が丁度良いの?」
「国と居続けると時間が狂うんよ」
優しく髪を撫でながら彼は続ける。その手はこちらの存在を確かめているみたいだった。
国と居続けると次第に周りから取り残されていくのだと、足並みがずれて自分ひとりだけ歩みが皆よりも遅くなっていくと言う。人の身と思考で受け入れることは難しいだろう。例え身体は良くとも、今までの感覚とは全く違う時の流れは精神を狂わせる。長く近すぎるとその影響は濃く強く出てしまうのだ。それを阻止するためにも一時的に距離を置き時間を正していかなければならない。故に今回のことは丁度良かったと言いたいのだろう。それならそうと戻ってから文なり何なり寄越してくれれば良いのに、と思うのは我が儘になるのか。折角彼が教えてくれた読み書きの成果を試せる時でもあったのに、と恨めしそうに彼を見た。そうすれば、帰りを待ち続け心労を重ねることは無かったとも思う。こればかりは自業自得なので大きくは言えないものの、少しくらいは愚痴を言うのも許されたい。
けれど、自分ばかりが対応を求めることも間違っていると気付き諦めることにした。国と人とでは価値観が違うので割り切っていかなければならないことも多い。
小さく息を吐いて目を逸らす。何も言わなくなったのを不安に感じたらしく、機嫌を取ろうと撫でたり口付けたりしてくるのを可愛く思ってしまった。見上げた美しい瞳には不安の色が滲んでいる。
「ただでさえ一緒にいられる時間少ないのにね」
「それは俺も寂しいよぅ」
我が儘を言えることでは無いと分かっていても思ってしまうのは仕方がない。けれど今の自分のまま彼と居るその為には、そうするしかないのだ。そうでなければ、彼の求める自分でいられなくなると思うと、従う以外に選択肢など無い。こちらの気など露知らず全身で懐いてくる彼を受け止めながらひっそりと溜め息を吐いた。
「我慢した分、会ったらもっと嬉しくなるって思っておくよ」
「ん……俺も」
笑いかければ安心した表情で頷くので、重い腕を持ち上げ柔らかな癖毛を撫でる。それだけで気を良くして甘えてくるのが可愛くて、敵わないなと内心で苦笑した。
改めて言われるまで考えもしなかった時間の流れの違いを思い、やはり寂しくなる。自分がいなくなった時、彼はどうするのだろう。他の人を想うことは嫌だが、それで彼が幸せと感じて生きれるのであれば良いと言うのは綺麗事か。だとしても今はそう言い聞かせるしか無いのだ。
黙々と考えながら彼を見詰めていたら瞼が緩やかに落ちていくのに気付いて瞬く。ようやく落ち着いてくれたらしい、輝くばかりだった双眸はゆったりとしたものに変わっていった。睡魔に身を委ねることに抗いながら何度も瞬くので、その意地らしさに小さく笑う。
「ずっと会いたかったんよぅ」
「わたしもだよ」
「待っとってくれて……うれしかった、よぅ」
「帰ってきてくれて、嬉しいよ」
眠るのを拒むように言葉を紡いでいくので都度返す。その間も髪を撫でていれば、左流石に我慢しきれなくなったらしく完全に目を閉じた。何とかして手繰り寄せた掛け布は、重なる体温の高さも有り暑いくらいではあったが、風邪を引くかもしれないと思うとそのままには出来ない。肩辺りまで引き上げたところで布を持っていった彼が頭まで被るのですっかり全部入り込んでしまった。強く抱きしめ脚を絡ませるのを好きにさせて、暖かさが眠気を誘う中でひとつ唇を合わせた。
「おかえり」
「ただいま」