君と歩む新しい世界
あれよあれよという間に審神者になってしまい、だだっ広い本丸に越してきたのが数日前。仕事以外で和室を見るのが好きではなかったので洋室に大改造したが怒られないことを祈ろう。無造作に積まれた段ボールをそのままに広間に向かう。ここもいずれぶち抜いて大きなリビングにしよう、と考えながら襖を開けた。自分以外誰もいない筈のそこに何かの気配を感じて思わず身構える。部屋の真ん中、ぬいぐるみみたいなそれはこちらを見るなりすっ飛んできて、足元に行儀良くお座りをした。
「貴女がこの本丸の主様ですね!」
「一応、そうなりますね…」
「私、こんのすけと申します。この度は主様をサポートするため政府より派遣されました」
「ご丁寧にどうも…ミョウジナマエです」
ナビシステムみたいなものだろう。矢継ぎ早に色々と言われてもそんな一気には頭に入らない。取り敢えず味方になってくれる神様を降ろせば良いのだろうか。とは言ったものの一体どうやって、と足元のもふもふを見る。助けを求める視線に気付いた彼はひとつ頷いて広間を出ていくから、慌てて追いかけた。母屋から少し離れたところにある鍛冶場を覗き込む。どうやらここで降ろすために何かをするらしい。今か今かと道具を片手にこちらを見る鍛冶師も式の類のようだ。政府から支給された端末の該当場所を選択し、必要な資材を打ち込むだけの簡単な工程は予想外にハイテクで驚いた。その上、次からは此処に来ること無く降ろすことが可能と聞かされてひっくり返るかと思った。それで良いのか神降ろし。簡単なことに越したことは無いので口には出さないが。
「さあ、主様。出来上がった刀剣に霊力を注いでください」
「注ぐ…?」
「やり方は主様次第です」
特別に札を貰って直ぐに仕上がった刀剣を前に眉を顰める。霊力を注ぐ、という抽象的なことを言われたとして直ぐに実践出来るわけもなく、暫く頭を捻った。こんのすけに助けを求める視線を投げても雑に返されただけ。注ぐ、すなわち入れるといった解釈で、力を込める要領で何とかなるかもしれない。ええいままよ、と抱えた刀剣に力を籠めるイメージを浮かべた。何か上手くいっている気がする。刀剣がじんわりと温かくなり、やおら淡く輝く。ひとりでに浮かび上がったそれが一際強く光を放ち、どこからともなく桜の花弁が舞った。収束する輝きの中、軽い動作で地に足を付けた艶やかな黒髪の青年に、最近の神様はイケメンの姿で現れるのか、と瞬く。声高く褒めちぎるこんのすけを抱えて、じっと見詰めてくる青年を手招いた。こんなところで立ち話というのも何なので、2つ分の資材を投入してから鍛冶場を出る。何か言いたそうながらも大人しく後ろをついてくる彼は物珍しそうに辺りを見回して、それから思い出したかのようにこちらを見た。どうぞ好きなだけと言いたいがもう部屋に着いてしまう。続きは後でだ。
まだ何もない広いだけの部屋の真ん中に腰を下ろす。
「審神者のナマエです」
「加州清光。これから沢山愛してよね」
「じゃあこれから沢山助けてね」
少しだけからかい混じりのそれに笑顔で返せば、綺麗な顔を驚きに染めて、それから小さく笑った。