「おはよう、クラウド」
「ずっと、いた…?」
気恥ずかしそうに薄ら頬を赤らめて見上げてくる彼に首を横に振って答える。眠る彼を見ているのも良かったが、折角だから話をしたいと思う。何より、曇りなく見詰めてくるその鮮やかな瞳を見ていたかった。様々な色を見せる眼はまるで万華鏡のよう。表情もさることながら多くを語るのはそれより他は無い。豊かな睫毛が縁取るその少し下あたりをゆるく撫でて微笑めば、嬉しそうに口を動かす彼がすり寄ってくる。目の前に、雛チョコボが見える気がした。
最近の訓練は目に見えて厳しく、自分以外にもへばる人が出始めてきた。けれど、訓練が終わればそれまでが嘘のように嬉々としてその場を後にしている。休憩室でうとうとしてしまう自分とは大違いだ。しかし、そのお陰で魔女さんに会えたのだから悪い事だけではない。優しい声に鼓膜を揺すられ、未だ微睡みという心地好いものに浸っていたい気持ちを収めながらそっと開けた視界に見えた、煌めく紫の瞳に思わず瞬く。穏やかに見上げてくるその人に手を握られているのに気付き自然と頬が緩んでしまう。服が床についてしまうのも構わず微笑むその人を呼び、目を覚ましたことで立ち上がった彼女は応えるように、おはよう、とまた微笑んだ。寝顔を見られていた気恥ずかしさから顔が僅かに熱くなるのを感じる。それを知ってか知らずか、睫毛をなぞるようにして目の下に指を這わされ、ゆっくりと撫でられた。一歩間違えれば眼球に触れてしまいそうで、本来なら恐怖を感じる行為だと言うのに、抱くのは完全な安心だった。思わずすり寄ってしまう。
彼女から与えられるぬくもり、触れ合い、眼差し、その全てが酷く甘美で、手離せない。与え続けられる無償の愛情に溶かされてしまいそうだ。彼女は以前、自分を悪い魔女と言ったが、その意味が全くと言っていいほど分からない。端から見れば魔女が子供を誑かしているようにしか見えないかもしれないが、そんなことを思ったのは一度も無かった。まるで母のようだと、眼前のその人を見上げる。優しくて暖かい絶対の安心を与えてくれる存在。いつだって、味方でいてくれる。例え彼女の心の内に秘めたものがあったとしても構わなかった。絶えることの無い施しに甘えている自分は、母に対してではない想いを、少なからず彼女に抱いているのだから。
(これが、好きってこと、なのかな)
でも今はまだ、このぬくもりに揺蕩っていたいと思う。きっと、彼女は許してくれるから。いつものように変わらず微笑み、その優しい声で名前を呼んで髪を梳くように撫でてくれる。魔女さん、と心の内でその人を口にすれば、満たされる感覚がした。
「魔女さん」
「なぁに?」
「もう少し、こうしていて…」
「クラウドが気の済むまで、こうしているわ」
隣に座った彼女に手を引かれ、膝へと招かれる。抗うことなく頭を乗せれば、閉じた目に華奢な手が乗せられる。この手が、好きだと思う。
薄れる意識の中、おやすみを聞いた。