戯れに頭悩ませて

豊臣に仕えるにあたり仕事が一変することとなった。竹中だけでなく豊臣の一部としての行商集団に属することにより対人関係も面倒なことになってしまった、というのは心の内に留めておくことにしよう。秀吉様の計らいで南蛮商人であることにしてもらえたのは嬉しい誤算である。異国との半分であるのは周りからの風当たりが酷くなるのは昔から知っていた。半分ではなく、純粋な南蛮人であると云うことにしてもらい、ここを拠点に外との貿易を仲介し商いをしている事実を作れば存在の確立は容易い。彼も助言してくれたのだろうことは予想出来た。


「お前さんが半兵衛の商人じゃな」
「みょうじなまえにございます。この度は、」
「あー礼はいらん!腕を振るってくれりゃええ!」
「はい。尽力致します」
「頼んだぞ。……それにしてもべっぴんさんじゃのぅ」


みょうじに属する商人達への業務連絡を終え、舶来の品を確認すべく倉へ向かう背に掛けられた声に振り返り、立っていた人物に佇まいを正し頭を下げる。大らかに笑うその人は、こちらを上から下までじっくり見た後に軽く肩を叩いた。顔を上げるよう言われ目を合わせた途端に先の言葉である。美しいと彼以外に言われたことはなく、どう反応して良いか分からずただ笑みを作った。主が仕えたいと思った程の人である為、それだけの魅力がこの方にはあるのだろう。品定めをするかの様に見詰めてくる視線を気にしないよう、投げ掛けられる質問に当たり障りのない程度に答えていく。正直に言ってしまえば人と対し会話するのは苦手だ。異国との混血というだけで奇異の目を向けられ遠ざけられては、酷い時には手を出される。いくら社交的になれどこの地に強く根付いた血の問題は付き纏い消えることは無い。そういう場所であるから仕方ないと割り切ってはいるが辛いものはあるのだ。
その中で自身を使い傍に置いてくれる主には感謝している。こんな機会は二度と無いだろうて、この繋がりを絶対に離すわけにはいかなかった。いつだって優しくしてくれたのは主だ。無理を言うことも少なくはないが、それでも、応えたいと思える人なのだ。ここへ来る前にその様な優しさに浸かり守られていたが為に、ここでの他人の視線が刺さる様で少し居心地が悪い。自身の所為で主が悪く見られたら、と考えてしまうのだ。故に、そう言うことが本当にならないよう、自然と他者との距離をとっていた。


「あれ?何やってるんです?」
「おお!半兵衛」
「なまえに手を出すのやめて下さい、って言いましたよねぇ?」
「まだ出しとらんわ!」
「…え」


不意に現れた主に気を緩め肩の力を抜く。後ろへ回った彼に抱き締められ、腰辺りに組まれた腕に少し安心した。耳元で聞こえる声は肩に顎を乗せられている為だろう。少しだけ不機嫌そうな声色なのは先の言葉の所為だろうか、まるでもう少ししたれ手を出すつもりだった、と取れる言い方は彼の気に障ったらしい。回された腕に力が込められ一層密着する形になったが故に伝わる体温に気を許してしまいそうになるが、眉を寄せ困惑した表情を作ることで悟られないよう勤めれば、耳元で彼が小さな笑みを零した。
掠める吐息に肩を竦めて振り返る。抗議の視線を向けたとて無意味と分かっているが反射的なものは仕方がない。宥めるみたく頬に頬を摺り寄せてくる彼の好きにさせながら溜め息を吐いた。その為、彼が何やら含んだ目をしていたのには気付くことはなかった。


「お前さんら、主と商人っちゅーよりはまるで夫婦じゃな!」
「その様なこと…主様には、」
「夫婦かぁ…それも良いね」
「主様!それでは奥方様は…」
「このご時世そーゆーのって普通でしょ?それに彼女もなまえを気に入ってるし」


あっけらかんと言う彼に頭を抱えたくなる衝動に駆られる。それは良い、等と笑い合う二人に頭痛がしてきた気がして反論する気も起きない。いくら彼の奥方様が気に入ってきれていようと良く思わない事もあるだろうて、簡単に言うのは憚られると云うのにこの方々ときたらこうであるから悩みの種は尽きなかった。しかも政の関係しない上での、彼が好意を持っているから妾にするなど、傍から見れば狂気の沙汰である。ましてや異国との混血など、普通の人間では有り得ないと言われても仕方がないだろう。話を弾ませる彼らに、誰か助けてはくれまいか、と額を押さえて息を吐く。しかし、この乱世の中こうして笑っていられる時間があるというのは良いことなのかもしれない。話の内容は別として、だが。回されていた腕を解き距離を取れば、どうかしたのか、という視線が二人から向けられる。


「了承は致しませんので」
「ははっ、振られたのぅ半兵衛」
「えー俺のこと嫌い?」
「そうではありませんがそれとこれとは別です」
「俺はどんな時でもなまえが好きだよ」


誰かこの人の口を早急に塞いで下さい。





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