及川徹の奮闘1

※残念な及川くんが苦手な方はおやめください



「ごめんなさい」

いつも教室で静かに読書に勤しむ雰囲気が良いと思った。時折、落ちる髪を耳にかける仕草をする、その時の指が綺麗とも感じる。字を追うために細められた、レンズ越しの伏せられた瞳を縁取る豊かな睫毛も色気を帯びて、つい凝視してしまうこともあった。そうして見詰めていれば視線を上げた彼女と目が合って、どうしたのとでも言う様に首が傾げられて、重力に従い頬を、首筋を滑る細く柔らかそうな髪に触れたいと思ったこともある。何が言いたいのかと言えば、要するに好みの女の子、というわけだ。なのでもっと近くで見ていたかったし、あわよくば手の内にとも考えた。心の底から好き、というのではなく気に入ったから傍に置いておきたい、その気持ちの方が強い。一緒にいたらどんな顔を見せてくれるのだろうか、興味も湧いた。

自身の容姿と人気は理解していたので、まず断られることは無いだろうと高を括っていた。故にそれに対する彼女の返答に処理能力が追いつかない。

「えっ…えっ?」

「え?」

本を読むそのままの体勢で顔だけをこちらに向けた彼女は、さして興味も無いという様子で温度の無い瞳を緩く細めた。まるで、まだいたのかと聞こえてきそうな雰囲気にたじろぎつつも食い下がる訳にもいかず、彼女の机に手をつきながら注意を引く。瞬く度に震える長い睫毛に一瞬のときめきを覚えたが慌てて脳内から追い出した。
まさかこうもあっさりと言われると思っておらず、振られた時の対処なぞ微塵も考えていなかったがこれだけは言わせてほしい、と口を開いた。

「ひとつだけ、言わせてくれる?」

「…はい」

「俺の顔ちゃんと見た!?」

そう詰め寄れば無表情だった彼女の顔が僅かに歪められ、初めて心境を顕にしたことに若干の嬉しさを感じる反面、思ったよりもダメージが大きく、唇を噛む。何故そのような反応をされなければならないのだ、と内心で文句を言いつつ、自意識過剰のナルシスト発揮するのもいい加減にしろ、と岩泉の声が聞こえてくる気がして悪寒に身を震わせた。怪訝そうに見ていた彼女の口から漏れた溜め息に視線を戻し唇を引き結べば、読みかけの本を閉じそのまま帰り支度を始め、片手間と言わんばかりに口を開いた。流し目のオプション付きである。

「貴方の顔に、心底興味がない」

鞄を閉める音がやけに響いて、さらりと言い切った彼女が立ち上がるまで反応が出来ずにいた。告白を断られた以上の衝撃であったのかもしれないが、それすらも良く分かっていなかった。まるで雷に撃たれた様な、そう形容するのが相応しいまでの事に戦慄いている間に彼女は教室を後にする。淀みのない流れるまでの足取りは、今までのやり取りなぞ無かったとでも言わんばかりだ。何も言えずその背を見送り、言いようの無い敗北感に襲われる中で1つの気持ちが胸中を占めていくのが分かった。ぐ、と強く拳を作り机に振り下ろしたそれは酷く大きな音を立てたが、一人しかいないので気にすることは無い。勢いのまま教室を飛び出し、階段を下ろうと廊下を曲がろうとする華奢な背中に、これまた勢い任せに叫んだのだった。

「俺をフッたこと、後悔させてやるんだからなーー!!!!」





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