アスベル君とロイド君に左右を挟まれて食堂に足を向けていたら、後ろからの軽い衝撃に前のめりによろめいた。けれど、倒れる事はなく、咄嗟に左右から出てきた腕に支えられる。言葉が通じないから心の中でお礼を言っておく。それから、抱き着いてきたのは誰か、なんてこの船には2人しかいない。その内、何も言わずに飛びついてくるのはタルトだ。ぴったりと背中にひっついている人物を確認して苦笑する。だってやっぱりだったんだもん。
「おかえり、タルト」
「ただいま、ミチタカ。ご飯間に合った」
ふわりと嬉しそうに微笑んだタルトの頭を撫でて笑顔で頷く。無表情がちなタルトだけれど、私といる時は大抵笑っている。勿論、普段でも笑い掛ければ笑い返してくれるみたいだから、別に感情が乏しいのでは無いみたいだ。
こうやって笑ってくれるタルトは私の癒し。それに、素直に懐いてくれる子は好きだし。
『やっぱり、タルトとは話せるんだな』
『うん。ミチタカの声聞こえるよ。おかえりって言ってくれた』
それにしてもタルトは本当に不思議な子。私とタルトは話せるけれど、タルトが私以外と話しているのは何にも分からない。タルトが無意識に違う言語を使い分けているように思える。きっとタルトがディセンダーだから、なんだろうけど。それだけで片付く問題じゃあないんだろうと思うが。
"ディセンダー"については前にタルトから教えてくれた。ミチタカにはちゃんと知っていてほしい、と言われたら聞くしかないだろう。純粋で無垢な存在のタルトは世界の救世主、だということを。それが良い事か悪い事かなんて知らないけれど、誰かに必要とされて、存在する理由が有るのは羨ましかった。ほんの少しだけ。
『ミチタカ』
少しだけ高い、でも落ち着いた声に、確かめるように名前を呼ばれて顔を上げる。聞き間違いか、と思ったけど間違いではなかった。私を呼んだのはアスベル君だ。彼は綺麗な水色の目を優しく細めて口角を上げた。随分と大人びた表情をする子だと思った。何、と云う意味を込めて、首を傾げながら肩を竦めたら、彼が笑みを深くした。幼子みたいなそんな感じ。大人びた表情だったり子供っぽかったりと、面白い子だ。まるで妹みたいだと思った。彼は男の子だけど。
反対側ではロイド君が私の名前を連呼していた。そんなに覚え難いかな。
「ミチタカ、アスベルもロイドもミチタカの事嫌ってない」
「そうなの?」
「言葉が通じないから、どうやって接すれば良いのか分からなかったって」
「そっか、そうだったんだ」
「うん。でも大丈夫。ミチタカは安心する、傍にいるだけで良い。他の皆も直ぐに気付くよ」
タルトの言葉を飲み込むのにちょっと時間を有した。あのねタルト、それは口説き文句って言うんだと思うよ。私以外の人に言ったら確実に誤解されるんじゃないだろうか。アスベル君達と話す彼の後ろ姿を眺めながら、切実に思う。タルトの将来が少し心配だ。
それにしても、傍に居るだけ、か。私的には凄く足手まといな感じがするんだけど、タルトがそう言うなら間違いは無いだろう。彼は嘘を言わないから。だから誰よりも信頼出来る。顔を見合わせて笑い合う3人を見つめながら小さく笑う。もうちょっと頑張れば皆、とは言わないけど、ある程度の人と少しは和解出来るのかな、なんて考える。でもやっぱり無理かな。だって基本的に部屋から出ないし、出ても絵を描いているだけだし喋れないし。理想はこのまま何とか乗り切る事。そうじゃなくても、ゆっくり私のペースで無理なくやっていこう。
『なあ、ミチタカ。一緒に食べないか?』
『な、良いだろ?』
若干ネガティブ思考だった私を現実に戻したのはアスベル君とロイド君だった。身振り手振りで何とかして言いたいことを伝えようとしてくれている。わかり易そうでわかり難いそれにて、苦笑していたら、瞬いたタルトが私の手を取った。
「一緒に食べよう。ボクとミチタカとアスベルとロイドと!」
初めての一緒
(それは良いんだけど)(実は此処からが本番だったりして)(いつも入るのに勇気いるんだよね)