「ーの為、くれぐれも皆さんは自分の命はー」


重い空気の体育館。
あぁ、何て誰も望まない環境。

物語の始まりが誰も望まない環境からだなんて、このお話は陰鬱な雰囲気しかしませんわぁ。
こんな物語の語り部に抜擢されるなんて私もついてませんわね。


ご挨拶が遅れました。私、四条久世利。読みはしじょうくぜりと申します。おかしな名前でしょう。でも字体的には悪くはないので、そこらのきらびやかネームよりはましだと自負しておりますわ。


さてさて気になるお話はと言うと、私、久世利の所謂片想いの相手が昨日、恋人と心中致しました。

世間様はその話題で大騒ぎ。高校生二人が自殺だなんて、マスメディアさん的には素晴らしいネタですものね。不謹慎で実に素晴らしいですわ。現に、今は全校集会中でして。まぁ、まぁ。


額に脂汗をおかきになった校長先生が、命の尊さについてお話しされてますが、つまらないテンプレ通りの有難い御言葉でしたわ。


そんな私が脳内ナレーションをしているうちに集会は終わり、生徒は喋りながら教室へと戻って行く。

…え?私?
勿論私だって例外ではありませんわ。ぼっちと言うものではありませんのでご安心を。


「久世利ー」

ほら、話しかけてくる程度に仲の良い友達くらい居ますのよ。

「なんですの」

「…なにその口調。ショック過ぎて疲れてる?」


はっ、間違えた。

皆様には伝え忘れておりましたが、私がこのような口調で語るのは脳内ナレーションをしてる時のみで御座います。
普段は普通のじぇいけーとやらに紛れ込んでおりますので、語り口調にボロが出ることもありますが、ご了承下さいませ。


「…まぁ、久世利はショックだよね……塔城君…」

塔城。
塔城瑠璃。

それが私の片想いの相手、だった。

だけど今はもう居ませんの。会えませんの。死んだから。彼女と一緒に死んだから。


「……付き合ってた二人に入り込めるなんて、思ってなかったけど…」

声のトーンを下げ、震わせる。
普段の口調を突然聞かれるなんて少々お恥ずかしいですわね。


元々幼馴染みなお二人の間には、私のようなポッと出簡易ライバルなんて、入り込める余地はありませんでしたけど。

「…………見ていたかった」


今にも泣きそうな顔をした友人が、私を抱き締めています。

「……あんたは、生きなきゃ……駄目だからね」


暖かい。
友人と言う人はとても暖かく、残酷で優しい言葉を吐いた。

きっと私が後を追うのを心配したんでしょうね。

言われなくとも、私にはそんな事出来るありませんのに。


あらあら、私の語り口調の鍍金が剥がれていく。

中途半端に剥がれて朽ちるもの程憐れなものはありませんので、一般的な口調で参りましょう。


池袋さんの秘密は、たぶん私と塔城瑠璃しか知らなかった。

私はただ感付いただけである。

片手を庇う姿とか、長袖をどうしても止めない姿とか。
あとに休みがちを加えると、私の未熟で偏見混じりな考察が完成したのである。



だって。


わたしも、 同じだから。




ただ彼女と違ったのは、私は死ぬ気はさらさらないことである。

いや、きっと私の人生の終わりかたは自殺(或いは過失による事故、自然災害などやむを得ないもの)だろう。

だけど、今はまだ時期ではない。


死にたいなんて言うと「何かあったの」なんて言い出す輩がかなり多いこの国だが、いくら楽しい時でも死にたいという感情は私の人生でついてまわる。

そんな事を聞いてくる輩はこの感情を持つ者の気持ちなんて分からないらしいから。しかし私は分かった方が気味が悪いので、一生理解しないままのたれ死ねとしか思わない。

「死にたい」と言うよりは「死んでもいい」と言う感情なのかも知れない。


たぶん私は「死にたい」じゃなかったから、まだここに居るんだとおもう。


あぁ、生は、侘しい。

死を選んだ娘を、あの人は選んだのだ。



不意に、目の前に居る友人の首に手を掛けてみたくなった。

死を目の前に叩き出された時、人はどんな顔をするのだろう。


実行することもなく、終わったけれど。


























お久し振りです。皆様。

え?この口調はやめたんじゃないかって?

あら、皆様は本来の久世利の方がお好きかしら。
それなら現世の久世利口調を読み込んでみましょうか。




あれから数週間経ち、少しずつ学校は普段の生活へと戻って行った。

人が二人死んだくらいでは、世の中は止まらない。驚く程に。


しかし私はいまだに動き出せずにいた。

数週間前の、あの二人が死んだ日の放課後に一人だけずっと佇んでいる。
夕陽に顔を照らされながら。

これはきっと呪い。

私が死ねないように、彼は呪いを掛けたのだ。

そして私はその呪いを呑み込み、受け入れる。



あの二人が仲良く歩く姿が、背中が、夕陽に包まれて紅く染まるのだ。










あなたのいない未来がずっと続いていく








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既存拙作、エンドロールに泣いたりしないのサイドストーリーだったり。

因みに瑠璃と朔は付き合ってません。まぁ端から見たら勘違いされるよねみたいな

お題は確かに恋だった様から。いつもありがとうございます。


久世利の名前はドクゼリと言う花から取りました。花言葉は、「貴方は私を死なせる」。



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