すっかり荒廃していながら、尚且つ禍々しさを感じさせる妙な城があった。 人はそれを、「魔王城」なんて呼ぶ。 その名の通り、その廃れた城には魔王と呼ばれるものが棲んでおり、人々は魔王を怖れる。 そんなよくある時代に。 数百年を恐怖で支配し生き抜いた魔王の初恋は、ひっそりと、確かに、存在していた。 「あーマジで勇者可愛い…早く魔王城来ねぇかなマジで」 豪華な一人用の椅子に無理矢理寝そべり、首をぶらんと垂らした状態で、一人の男は呟いた。 漆黒の襟足あたりまで伸びている髪、鋭い目付きに長い手足。容姿端麗と言うべき外見をしている割には、行動や口調が伴ってはいなかった。 「…あの、魔王様」 もう一人、金の髪にゼニスブルーの肌と言うなんとも人間味の無い色合いの、呆れ顔の男が現れる。 「なにー?」 「確かに今回の勇者は…並の人間よりは優れた相貌の持ち主ですが……」 「男ですよ、でしょ?もう分かってるよ。何度も色んな魔物に言われてきたからね」 魔王と呼ばれた男は、あっさりと金髪の男の言葉を遮ってしまう。 金髪の男はそれにまた呆れたように小さな溜め息をつき、魔王に視線を合わせる。 「大体何故勇者なんですか…美しい魔物も沢山居ますでしょう」 「ダメなんだよ、側近。…もう勇者じゃないとさ。こう、運命みたいな?てか現に勇者と魔王だから運命なんじゃない?」 金髪の側近の溜め息を受け流すかのように、魔王は明るく語りだした。 あぁ、こんな適当で運命なんて言っちゃってる男が魔王だなんて、誰が思うだろうか。 側近はただでさえ青い顔をさらに青くし、こめかみを押さえながら世の将来を案じていた。 「魔王様、ご自分でも理解してらっしゃるようですから言いますが、運命と言っても奴は勇者!敵の中の敵なんですよ?」 「そもそもさ、なんで人間は魔物を嫌うか分かるか?」 問い掛けをスルーされるようなことを言われ、側近は少し戸惑った。 「…魔物が恐ろしいからでしょう。彼等と私達では、力の差がありすぎる」 「そう。だからめんどくさいから我がゆるく支配してやった。もう何百年もだ」 そう言うと寝そべっていた魔王は起き上がり、椅子に座り直して頬杖をついた。 「そうでしょう。だから、勇者への恋慕の感情はさっさと断ち切ったら如何ですか」 「でもさ、本当にそれが一番だと思うか?」 側近に鋭い視線を向けた魔王は、問う。 「…一番、とは」 「人と魔物がいがみ合う、ドロッドロの世界が、一番良い選択だと思うか?」 魔王にあるまじき発言である。 自分からいがみ合うような世界にしておいて、本当に滅茶苦茶な性格。 「…いや、それただ勇者妾りたいだけでしょう」 「あ、バレた?」 「全く……」 先程の真剣な眼差しはどこへ行ったのやら、魔王は魔王のくせに邪気の無いような笑顔で笑い飛ばしていた。 「魔王、人間側からしてみればですね」 「もういいから、側近の話長いし。退室命令!」 めんどくさそうに側近を一瞥し、大きな扉を指差す魔王。 側近はもう無駄だと言わんばかりに早々に退室してしまった。 「はー…全く、側近はうるさいな」 窓辺に座り、外の風を感じながら呟いた。 魔王は懐から一枚の写真を取り出す。 そこには明るめの茶髪に、男にしては長めの睫毛の麗人が写っていた。 魔王が恋い焦がれている、勇者である。 人間の作り出したカメラとやらで撮ってみたが、意外に悪くはない。 無論、カメラなどなくても一瞬で完璧に光景を記憶するなど、魔物には容易い事なのだが。 勇者の、人間の事を、知りたかった。 魔王にとっての理由など、それで十分である。 「…分かっちゃ、いるがな」 人間と魔物。 勇者と魔王。 相容れない、近付くことは許されない、対照的すぎる二人。 「触れる資格などありはしない」 ……今は。 魔王×勇者ものが好きです。 好き過ぎて、シリーズ連載なんか始めました。やらかしました。 お題は「確かに恋だった」様より拝借致しました!ありがとうございます! では、シリーズ連載、ご贔屓に。 |