小説 | ナノ



白く乾いた布団の中でいびつな円を描いて綾部は眠っていた。目から上だけを出して規則正しく息を吸うては吐いている。もう二度と開くことはないのではと思われる程に瞼は重く閉じられていて、長い睫毛だけが光を帯びて生き生きとしていた。人差し指が丁度挟まる位にだけ開かれた障子の隙間から透明な日の光が薄暗い部屋の中にまっすぐと射しているのだ。私はただ呆然と立ち尽くし、足元にある白い丸を見つめていた。まだ日の翳らない間に眠る綾部を見るのはもう両の手では数えられない回数になっていた。

「眠るというのはとても怖いことではありませんか。」

ある日、私が一向に眠りつづける綾部の横に座って本を読んでいたら、急に、しんとした部屋に綾部の声が鋭く鳴った。驚いたものだから、すこし目を見開いて、起きていたのか、と綾部に顔を向けて尋ねると、丁度今、と光で眼を窪ませた様子で唇をゆっくりと動かし、私のどよめいた姿などつゆしらず先ほどの言葉の続きを話した。

「このまま眼が覚めなければということではありません。私は、私が眼を閉じている間に何もかもが変わってしまったらと、そう思うのです。眠る行為が私を生かす様には到底思えない。私のいかれてしまった脳が作った嘘の真しか私には無くなってしまうのではないかと、此れは死ではないのかと。ねえ先輩、私は先輩と同じ様に生きているのですか。私は、先輩が嘘になって消えてしまいそうで、怖い。」

本当に困り果てた。さっぱり解らないのだ。私はただ右の手を端正な彼の顔にぴとりと重ねて、大丈夫だと仕様もない出鱈目をいうしかできなかった。綾部の病状は一日ごとに着実に進んでいて、それは綾部じしんが誰よりもからだで感じていたことであったのに。綾部は先輩はきっと正しいのですねと云って目を瞑って沈んでいった。おやすみ綾部、そう呟いてゆっくりと私は布団を綾部の肩まで掛け直す。そして彼はまた生き物の呼吸のしない闇の中を彷徨うのだ。


120123
ナルコレプシーというかもう創作の病気になっちゃった



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