小説 | ナノ


・現パロ

綾部がいたいいたいと泣いた。どうしたなんていうのも面倒で放っておいた。一分くらいすると綾部は一時間ほど篭っていたバスタブから私のいるリビングにぺたぺたとやわらかい足を床にくっつかせながら(如何にもわざとらしい)やってきてベッドで寝転んでいた私の上にどさりと乗ってきた。その時私はただぼうっと壁から窓への間に置いてあった大きな水槽を見ていた。一匹の真っ黒な金魚がひらひらと尾をなびかせて悠長に泳いでいる。水面にはぷかぷかと気泡がたちならんでいる。本当は二匹いたのであったが私も綾部も餌をまめにやらないから先週くらいに死んでしまった。それからよく私は水槽を気にかけるようになったのである。
「重いから退け」
「私は痛いんです」
私の言葉など無視して綾部は言う。顔は至って平常である。
「何処が」
「全部」
私は綾部の吐く抽象的な嘘が嫌いだった。だからベッドから突き飛ばして本当に痛めてやろうかな、と思ったが、私もなにかとても感傷的な気分であったから、そうか、と一言呟いてそのままにしておいた。
「薬を飲んでも治らない。じっとしていても治らない。あたたかくしても治らない。鉢屋先輩、どうして」
どうしてもこうしても私は医者でもなんでもない。さあ、と軽く応えようとしたが、綾部が私の胸に顔を擦り付けて来て、それもさえぎられた。そしてただじっといたいいたいと機械のように唸った。すると、ふと彼の顔が甦った。私は思わずばっと綾部を私の足の方へ押しやっていた。心臓がばくばくする。私のどよめいた様子を見て、まさか思い出したんですか、と綾部が満足そうに笑みを浮かべた。いちいち癪に障る表情をする奴だと、意識的に舌打ちをした。
「先輩と触れ合っても全然気持ちよくない」
不機嫌そうに吐き出した綾部をまた蹴ってやろうとしたが綾部の顔が生涯孤独を知った子どものように哀しくてできなかった。未練たらたらの私たちは何時になったら元に戻れるのだろうか。私には綾部しかいなくて綾部には私しかいなくてなのに私たちはどうしても拒んでいびつなかたちのままだ。雷蔵に会いたい、つよくつよく思った。
「泣くなよ」
「先輩はもっと優しくなってください」
「お前の生意気がなおったらな」
「あと髪の毛も黒くしてください」
「やだよ」
私がそういうと、つまんないなあ、と小さく呟いて私の足元で身体をまるめ、ゆっくりと瞼を閉じた。そう、いつかきっと。



111215
いつか心地よくなる
(棘さまより)




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