小説 | ナノ

?現パロ女体化
?呼び方は綾部くん、タカ丸さん


ぴゅうぴゅうと風が吹いている。囲われたフェンスの向こうには私たちの住む街が、何にもない運動場には学園生活を暇なく紡ぐ学生達が、そして此方にはひたすらアスファルトと空の境で微睡む私とタカ丸さんがいる。まるで駄目な、私の先輩。
「タカ丸さん授業は?」
「保健だから大丈夫」
気怠そうに間延びした声で云う。右手には何時もの牛乳パック、左手には珍しく私の腕が絡められている。触れた瞬間に、余りのタカ丸さんの手馴れた雰囲気に竦んだけれど、解きはしない。タカ丸さんの気分屋はとっても難しいのだ。自分で私を呼んだ癖に、何しに来たの、なんて平気で云う。そんなとき私はどうしようもないから、牛乳を買って来る。すると、何故かタカ丸さんはおかえり、と微笑むのだ。私は完全にお気に召すままなのである。
「綾部君、こっち向いて。」
突然だった。私はなにかをぼうっと考えていたから、警戒心もなく、云われたままにはあ、とくるりと横を向いていた。前触れなんて何一つなかったのだ。私の眼にタカ丸さんの明るい髪色の光が突き刺したと思ってすぐ、タカ丸さんの薄い唇が私の唇と合わさった。私は理由が判らなくて、ただタカ丸さんの胸元のリボンがくたびれているのだけが見えていて、もしかして私達は危うかったのかしら、なんて今更に考えていた。でもその裏腹に、乾燥してひびわれた唇を気にしている私もいて、心底切なくなった。
タカ丸さんは、一つ下の、誠実そうな青年にずっと焦がれている。それは私とは程遠い、完璧な黒髪である。なのに何故。
「しちゃった。」
「はあ。」
正直泣きそうだった。誤魔化すように、私は如何にも余裕そうな笑みを顔に貼り付けているタカ丸さんから顔を背けて、色の違う上履きをじいっと見つめた。私のはまだ履きたての頃の青白さが残っているけれど、タカ丸さんのにはくすんだ汚れと共に私の知らない長い年月が染み付いている。また、大きなまるい穴も一つあった。ぎゅっとタカ丸さんがまわしていた腕の力を強めた。綾部君は可愛いなあ、なんて云う。私のことなんかまるで無視である。
どうしようどうしようと思い悩みながら、私は自由な右手で自分の腹を懸命に撫でていた。タカ丸さんのついでに買って飲んだ牛乳で軽く腹を下したのか、薄く痛みを感じる。私の腹はぐるぐると鳴り続けていた。タカ丸さんは相変わらずにこにこと笑って私の腕を離さない。恨めしい、私もまるで駄目な後輩であったのだ。


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染まる



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