結局、あの後私は苛立ちも何もかも忘れてかなり長い時間寝てしまった。里沙ちゃんが起こしてくれたとき、無意識にあの綺麗な金色を探した自分、そしてそれがどこにも見当たらなかったことに少しがっかりしてしまった自分に驚いた。今まで他人にあんまり興味が持てなかったからかもしれない。
 ――思い出したらまた眠くなってきた。
『…ねむい…』
「あはは、大丈夫?ちょっと寝てきたら?」
『そうしようかな』
 行ってらっしゃい、と笑った里沙ちゃんに背を向けて、保健室に行こうと歩き出す。そういえば今日はこの間みたいに天気がいいんだな、とふと思ったところで、私の足は自然に屋上の方へ方向を変えた。何故か少し早歩きで着いてしまった屋上の扉を開けると、やっぱりいた。
 その金色の眩しさに軽く目を細めていると、彼はちょうど今起きたところらしく眠たそうな目でこっちを見ている。
「んあ?君もしかして、この間もここで寝てた子?」
 眠気を誘うようなのんびりとした声。耳にすんなり入ってきたそれにこくりと私が頷くとやっぱり!と彼はにっこり笑う。
 そうかと思うと、私の顔を見て夢から覚めたみたいに驚いた顔に変わった。
「って、あれ?もしかして3年の名字名前ちゃん?」
『うん。あなたは?』
 声が出ないことで大体の人に知られているから、今更知らない人に名前を知られたところで気にすることは無かった。身振りを交えつつ出来るだけゆっくりと口を動かすと、「俺は芥川慈郎、君と同い年!」とどうしてかとても嬉しそうに笑って、その拍子に金色が揺れる。ぼんやりとしている私に話し掛ける声はただ明るい。
「ね、また今度ここでお喋りしない?」
『…なんで?わたしと芥川くんは初対面だし、』
「ちょ、ちょっと待って!もっとゆっくり!」
 予想外の言葉に驚いて、つい里沙ちゃんと喋るときと同じペースで話してしまったことに気づく。面倒臭いけど、ゆっくり話すのは時間が掛かってしょうがないからいつも必ず持ち歩いているペンとメモ帳を取り出した。何がそんなに面白いのか分からないけれど、芥川くんは目をキラキラさせながら私が言葉を書き終わるのを待っている。――変な、人だ。
『…はい』
「ありがとー!なになに?『私と芥川くんは初対面だし、私と話したって特に楽しいこともないと思うよ』…そんな事ない、今俺楽しいよ?」
『え?』
「…君とね、話してみたかったから」
『……………』
「嫌?」
 芥川くんは固まってしまった私を見て不安そうにしながらメモ帳を渡した。書いて、という事らしい。
『初めてそんな事言われたからびっくりしただけ。芥川くんがいいならいいよ』
 今度は少し急いでそう書いたメモ帳を渡すとやった!と芥川くんは喜んだ。話してみたかったと静かに微笑んだときとは打って変わって、年齢よりも幼くて素直そうな笑顔。そういえば、今の芥川くんからは眠そうな感じはしない。
「じゃあさ、名前ちゃんって呼んでもいい?」
『いい、けど…』
「マジマジ?じゃあ俺の事もジローでEーよ!」
『わ、わかった』
 目まぐるしく変わる表情とかどんどん話し掛けてくるテンションの高さに少し驚いたけれど、うるさいのが苦手な筈の私は不思議とそれを少しも嫌だと感じなかった。どうしてだろうと思いつつメモ帳によろしくね、と書くと、ジローくんはこちらこそ!と悩むのが馬鹿らしくなる程晴れやかに笑った。


 

(あったかくて、不思議なひと)


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