あんたなんかいらないと言われた日から、私は“声”を捨ててしまった。
 ――何を言ったって受け入れられない言葉ならいっそ要らないと、そう思ったから。


 ふわふわ、ゆらゆら。色に例えるなら桃色だと言えるような風が花びらを散らしている。少し開いた窓越しにそれをぼんやりと見詰めていると、大切なひとの声が耳を掠めた。
「名前、今年もクラス一緒だよ!」
『ほんと?』
「本当本当!嬉しいなぁ」
『わたしもうれしいよ』
 声に出さずに口の動きだけで話す私の言葉を理解してくれる親友の里沙ちゃんは、喋れなくなった事を辛いと思えない私の代わりに「名前の声が聞けないの、寂しい」とぽつぽつ涙を流してくれた、本当に大切なひと。里沙ちゃんが傍にいてくれるおかげで不自由な思いもしなくて済んでるし、何より里沙ちゃんは優しいし明るいし一緒にいて楽しい。
 でも、たまに昔を思い出すとどうしても一人になりたくなる。
 里沙ちゃんには申し訳無いと思うのに、そういうときは全てのことがうるさくなるのも本当だ。
『…里沙ちゃん、』
「ん?どうしたの?」
『おくじょう、行ってくる』
「…はいはい、気をつけてね」
『うん、ありがと』
 そんな私の小さな子供みたいな部分も知っている里沙ちゃんは、サボりを咎めることもなく呆れたような笑顔を付けて送り出してくれた。頭が上がらないな、とこっそり苦笑いを浮かべつつ、もうすっかり行き慣れてしまった階段を上る。屋上の扉を開けると、真っ青な空と真っ白な雲のコントラストが優しく鮮やかでほっとした。
 そうして一息付いてからいつもの場所に行こうと給水塔の側にある梯子に手を掛けたところで、視界の端になんだかやけに眩しいものが映り込んだ。
『(…?金属?)』
 あんなところに何かあったっけ、と首を傾げつつ梯子を登ってはみたものの、特に思い当たる節は無い。正体を確かめる為に近寄ってみると、それは綺麗に染め上げられた男の人の金髪だった。少し幼い顔で眠っている面立ちに見覚えが有るような無いような曖昧な感覚に、自然と眉間に皴が寄る。本当なら別の場所を探すべきなんだろうけど、でも梯子を下りるのも面倒だからと出来るだけその人から離れたところに寝っ転がると、気持ちよさそうに寝てるその人につられたのかすぐに眠気が襲って来て。
 気がつけば一人になりたかったことも忘れて、重力に従うまま瞼を降ろしていた。


 

(眠りに落ちる直前まで覚えていたのは、きらきら光る君の髪)


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -