入学してから一月。遠足も終え、漸く落ち着いてきた名前と宍戸のクラスであったが、この二人を除くクラスメイト達にはある共通の謎と暗黙の了解があった。
「………う」
「…やっと起きたか」
「……う、うう」
「寝るな」
 ぺしん、伏しかけた頭を叩く音がざわざわとした教室に響く。それなりに力が篭っていたのだろう、いたい、とまだどこか眠たげな動きで頭をさする名前は涙目になっていた。
 名前は、とにかくよく眠る。
 授業中、休み時間に関わらず、本能のまま、寝たいときに寝ている。既に遅刻は片手では足りない程であるし、今のやり取りだって日に1度は見られる光景だ。それだけでもかなり問題だというのに、歩いている途中でがくんと眠りに落ちたこともある。それを見てさすがに心配になったクラスメイトが名前に「どうしてそんなに寝ちゃうの?」と聞いてもへらりと笑って「眠たいから」との答え。言わずもがな、これが共通の謎である。そして。
「ふ、わ…次は…古典?」
「違えよ、数学だ。…ったく」
「あー…うん、分かった」
 亮ちゃん、ありがとう。へらりと、しかしいつものそれよりも幾分嬉しそうに笑った名前に、宍戸も小さく笑い返しながらぽんぽんと頭を撫で、少し離れた自分の席へ戻って行った。
 暗黙の了解。それは、この二人が一緒にいるところを邪魔しない、といったものである。聞けば幼なじみだという二人が一緒にいると、互いが出す空気が色で言えばベージュのようにほんわりとして、なんとなくあたたかみのあるものに変わるためだ。勿論、当の本人達はそんな理由でクラスメイト達から遠巻きに見守られている、だなんて知る由も無いのだが。
 宍戸が近くの席の男子と騒ぎ始めた頃、名前の席にも友人が歩いてきた。
「名前ちゃん、おはよう」
「あー…、うん、おはよ」
「ね、私外部だったんだけどさ、名前ちゃんと宍戸くんは内部なんだよね?」
「うん」
「そのときから今みたいに仲良しなの?」
「…うん」
 名前にしてみればいつもと同じ笑顔で頷いたつもりでも、その頬は緩みきってへらりと言うよりへにゃりとしたものになっている。声を掛けた友人も、ほほえましいなあと思いながらにっこり笑った。
 せっかく教えてもらったのだから、と張り切って授業を受けようとしたものの、結局は睡魔に負けた名前が宍戸から叩き起こされるのは、また別の話である。


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