(…思ったより時間かかっちゃったなあ…)
 職員室から出て来た名前は疲れたように首を回し、校舎の外へと歩き出す。動く度に耳につく、まだほとんど空の鞄の中でかこんかこんと音を立てる物に小さな溜息を漏らしながら、見学したときの記憶を辿った。


 特に迷うことも無くテニスコートへ到着すると、名前はおやと首を捻った。てっきり普通に部活をしているかと思いきや、何故か例の跡部とやらと向日、そして宍戸だけがコートに入っている。どうして1対2なんだろうとか、新入生は半年間ラケットを握れないのが伝統とか言ってなかったかとか、そもそもこの異様な雰囲気は何だろうとか。諸々の疑問は後で宍戸に聞こうと、取り敢えず二人の正面側のベンチに腰掛けた。
 跡部の手からボールが離れ、試合が始まる。
「(あ、亮ちゃん達が横抜いた)」
 得意気に笑う二人を見て自然とゆるり、口の端が上がった。そのときコートにいる宍戸が名前に気付き、彼の視線を辿った向日とも目が合う。
「(が、ん、ば、れ)」
 思わず立ち上がってぱくぱくと口を動かすと、二人は応えるように笑った。大会でもよく見せてくれた、自信に溢れた笑顔。頷いた名前はへらりと笑い、試合を見守ろうと椅子に座り直した。


「ゲームアンドマッチ跡部!6-3!」
「…くそっ!」
 試合の終わりを告げる声、宍戸と向日の悔しそうな声。それらを聞いた名前は情けなく眉を下げる。ざわざわと騒ぎ出したコートを離れ、すぐ近くの自販機に走った。
 がこん、がこん。
 落ちてきたスポーツドリンクをゆっくりと拾い上げ、濡らしたタオルでくるくると巻き付けながらコートへ戻る。さっきまで自分以外ほとんど誰も居なかった筈のそこにはたくさんの女子が居た。けれど右からも左からも聞こえてくるのは『跡部サマ』への声援だけ。きゃあきゃあと騒ぐ光景にうんざりしながら、ベンチも埋まっちゃったし、と小さくつぶやき、携帯を取り出して簡単なメールを打つ。
 ほどなく出て来た送信完了の文字を見届けると、名前はくるりと背を向けた。


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