今にも滴り落ちそうなほど露を乗せたみずみずしい葉っぱが、太陽の光りを浴びながら青々と輝いている。週末を挟んで久しぶりに登校した学校はそこここから雨上がり特有の湿ったにおいがした。
 名前が寝込んでいるいつの間にか都内も梅雨入りを済ませたらしい。けれども今日は梅雨の晴れ間にしてはむっとした感じはせず、むしろ水分を両手に抱えた風がひんやりと冷たくてしのぎやすい。ただし太陽はじりじりと容赦なく肌に突き刺さるような感覚があり、なるほど梅雨が春の終わりであるとともに夏の始まりであるということは頷けた。
 自分にはじっと立っているには少しつらい陽射しに思えたけれど、きっと幼なじみは雨が降っていないことを幸いと動き回るのだろうと想像した名前は手をかざしながら空を仰ぎ、眩しさにそっと目を細める。そのときぽんと肩を叩かれた名前は、振り返ってその顔を見るなり嬉しげに唇をほころばせた。
「名前、おはよ!」
「おはようジロちゃん、早いねえ」
 芥川はそれを言うなら名前もじゃん、とやや頬を膨らませたけれど、すぐにそんなことより!とにかっと笑って、
「放課後さ、何か用事ある?」
「え?特に無いけど…」
「じゃあじゃあ、体調は?」
「最近少し休んでたから今日は元気!何かあるの?」
 小首を傾げた名前に、芥川がその通りだと頷く。珍しく朝からこうもテンションが高い理由と関係があるのだろうか(そもそも始業前に彼の姿を見ることも珍しいのだが、それは名前も人のことは言えない)と内心また名前が首を捻っていると、芥川はぎゅうっと音が出そうなほど強く名前の手を握りしめた。
「ねえ名前、今日テニス部見に来てよ!マジマジすっげー楽しいことになると思うから!」


 始業ぎりぎりになって教室へ入って来た宍戸に、名前はもう駆け寄らずにはいられなかった。
「亮ちゃん、おはよう!」
「ああ、はよ。ちゃんと熱下げてきたか?」
「もちろん!亮ちゃんのお見舞いのおかげだよ、ありがとう」
 ちょうど雨上がりの虹のように、嬉しいとか楽しいを顔中にきらきらとめいっぱい広げている名前につられて宍戸も楽しげに笑う。ふと名前が学校に来られたことをこんなにも喜んでいるのは珍しい、と少し不思議に思ったけれども、何にせよ元気なのはいいことか、と深く考えることも無く宍戸は軽く名前の頭を撫でた。
 本当は宍戸の思ったように名前が喜んでいる理由はほかにあるのだけれど、それはまだ名前と芥川の小さな秘密なのだ。
「はしゃぎ過ぎてまた熱上げんなよ?」
「うん!」
 にっこり笑った名前の心は、すっかり放課後に向かって走り出していた。


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